ひと手間が、食事を豊かにする

   「マクロビオテック」が、穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食を基本にした食事法で、自然との調和をとりながら、健康な暮らしを実現する考え方であることは前回、書かせていただいた。
 その素晴らしさを教えてくれ、私を体質改善へと導いてくれたHさんは、厳格にこの食事法を実践している。 外食する場合も、材料にこだわりのある自然食レストランにしか入らない。私のようにコーヒーやアルコールも口にしたりせず、とにかく徹底している女性だ。 私は彼女を尊敬する一方で、もし、私がそのまま彼女のやり方をまねしてしまったら、きっと息が詰まってしまうに違いないと思う。 頭だけで理解したことを、無理をして続けようとすると、それがストレスになってしまうのが自分でもわかるからだ。完璧にやろうとして三日坊主で終わるより、おおよそ基本的なことが守られていればよいと考えるようにしている。
 「ゆる(・・)マクロビ」を実践しつつ、動物性たんぱく質はできるだけ魚貝類から摂取し、コーヒーやワインなどの嗜好品もほどほどにたしなむようにしている。 コーヒーを飲まず、食事前のグラス一杯程度のワインさえ我慢するストイックな生活は、私には到底できない。 嗜好品もほどほどに楽しみ、気分よく過ごしていった方が私には向いている。そして何より、それが私にとって無理がなく長続きする方法だからである。

 私のように、玄米などの雑穀と野菜類を中心に魚介類を加えた食事をするひとたちのことは、「ぺスコ・べジタリアン」とも呼ばれている。 肉類や乳製品、卵などに頼らない食事を続けながら、たまの外食もOKにする。たまたま友人が真心込めて作れた料理に、少々の肉が入っていても、からだに大きな影響はないと考え、ありがたくいただく。 私のために作ってくれた友達の気持ちの方を尊重し、楽しい時間を過ごしたいからだ。優先したいからだ。
 そのためにも、基本的としている「一汁三菜」を軸にした食生活を続けるには、下準備が大切になってくる。常備菜を作って置くのも賢い方法だが、連日、同じ料理が続いてしまうと私はどうしても飽きてしまう。 だからといって毎食、一生懸命作っていては身が持たない。一日中、食事のことを考えていなければならなくなるからだ。

 「一汁三菜」を用意するためには、たっぷりの野菜が必要だ。新鮮な野菜を手に入れるためには、こまめに買い物にいかなければならない。また、根菜類を多く料理に取り入れようとすると、洗ったり刻んだりするのに時間がかかる。 要は下準備をどれだけ要領よくやり、いかに料理の段取りを組み立てるかが、毎日の料理作りに困らないためのポイントだと思っている。

私が実践いているひと手間は・・・ ① レンコンやゴボウは、その日に使う分より多めにカットし、使った残りを冷凍しておく(色がかわりやすので)
② ニンジンは煮物に使ったら、一部をさらに薄くスライスし、パックに入れて冷蔵して(ごろりとした大きめが好きな場合は同じ大きさのものを)、翌日、味噌などの汁物の具にする
③ ダシとなる昆布と椎茸は、水を張った容器のなかに浸し、常時、冷蔵庫に入れておく。すると味噌汁でも、煮物にでも何でもすぐに使える
④ ③のダシ汁にみりんと醤油を加えれば、そのまま自家製の「めんつゆ」ができあがる(→市販のものを買う必要がなくなる)
⑤ 味噌汁は多めに作っておいて、その日に食べて残った分は冷蔵庫へ。食事のたびごとに新しい野菜を加えれば、2~3日の間、最初から味噌汁を作らなくてすむ
⑥ ねぎは細かく刻んで容器に入れ、冷蔵庫に常備する。味噌汁や炒め物にすぐ使えて便利
⑦ じゃがいもやさつまいもなどのイモ類も、数日で使いきれそうな分をまとめて蒸してしまう。サラダや炒め物にも、また味噌汁の具としても重宝する

こんな程度だ。下準備を少しするだけで、気持の負担も減り、調理時間そのものも短縮できている。毎回の食事に準備時間は、朝と昼に30分、夕食は1時間ほど。
 病気をする以前の私は、台所仕事の軽減につながるような下準備をする知恵がほとんどなかった。そのために、仕事で疲れて帰宅すると、これから料理をすることが苦痛でしかたがなかった。だが、下準備の大切さがわかったいまでは、無理せずに基本的な食事をきちんと作り続けられるようになった。
 私はこうした細かな食生活の知恵を、残念ながら、母からはほとんど学ばなかったが、それは母がフルタイムで働いていたため、時間がないせいだと思っていた。 しかし、自分で料理の段取りをしっかりと考えるようになってから、忙しいからこそ、こうした下準備の工夫や、健康を守るための食意識が、いかに必要であるかがわかった。

「聡明な女性は料理がうまい」
というのは、80年代、作家の桐島洋子さんの同名の本がベストセラーとなり話題になった。その影響もあって、女性を褒めるときに、よく使われたフレーズだ。 このいい方は、いま聞いても新鮮で、女性の本質をうまくいいあてている。賢い女性ほど知恵をよく働かせ、限られた時間とお金をフルにつかって、美味しく質のよい食事を作るのを、実際に私は何人も見てきたからだ。そういう女性はみな背筋が伸び、健康的で美しいからだつきをしている。
「そのひとのからだつきを見れば、どのように生きてきたかがわかる」 と欧米社会で、よくいわれているように、日々の食べ物が「私をつくる」のであり、人間の生き方にも影響を与えるのだ。

Setsuko Nakamura