10年ほど前、大学駅伝の優勝校の選手が、朝のテレビ番組で、インタビュアーから「彼女が毎日お弁当を作って応援してくれたそうですね。その彼女に一言どうぞ!」と促されて出た言葉が、「冷凍食品はやめてください!」だった。笑いを狙っての発言の中に、「弁当づくりは女の仕事」というゆるぎない常識が前提とされていて、あぁ、この大学のジェンダー教育はどうなっているのだろう、とため息をついたものだ。
早稲田も他人ごとではない。2000年に早稲田大学にジェンダー研究所が開設されて以降、2003年に世間を騒がせるスーパーフリー事件を起こして性犯罪の厳罰化に不名誉な貢献をしてから、2016年に政界で起こったOBたちの不祥事まで、ジェンダー研究所のメンバーたちはため息をつきつつ、足元におけるジェンダー教育の責務に向き合ってきた。
このたび上梓した本書は、第一部「ジェンダー研究の深化のために」と第二部「ジェンダー教育の深化のために」からなっている。第一部は、早稲田大学ジェンダー研究所のメンバーを中心に、その学際的な環境から生み出された17本の研究論文を収めている。第二部は、女子学生たちへのキャリア教育にとどまらず、法学や教育学、文学、歴史学におけるジェンダー教育の実践を論じ、課題を提示したものである。論文の本数としては7本と少ないが、単なる研究論文集とは異なり、「私学の雄」とされる早稲田大学で、具体的にどのようなジェンダー教育が展開されているのか、その概要を示している。
初等教育、中等教育に比べると、大学のカリキュラムは、研究者/教員の采配にゆだねられている。また、多くの学生にとって、大学はジェンダー教育を受ける最後の場でもある。このことを自覚し、われわれはジェンダー研究/教育の深い森のなかで道をつくり続けなければならない。
ジェンダーの視座を習得した学生たちは、やがて意識的、無意識的に社会を変えていくことになろう。本書が「高等教育とジェンダー」についての議論を活性化することになれば幸いである。
(共編者 弓削尚子)
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