WAN理事長の上野千鶴子さんが、毎日新聞の連載『読書日記』(2017.3.21夕刊)でミニコミ図書館を紹介しました。
 『読書日記』は4人の執筆者の回り持ちで、今回が上野さんの最終回になります。ここでは『あごら』『長崎ばってん・うーまん』『SKIP通信』など各地のミニコミをとおして、女性の運動にミニコミが果たした役割を高く評価、ミニコミ図書館が「女の財産を消滅から守るもの」と紹介されています。
 以下にその全文を掲載いたします。

ミニコミに刻んだ女たちの声

 このところミニコミの休刊、終刊が相次ぐようになった。日本の女性運動は、各地の小規模な団体が会員向けに発行してきたミニコミでつながってきたのだが、その担い手たちが高齢化したためである。初期の頃は、ガリ版を切って、刷って、折って、畳んで、封筒に入れて、切手を貼って郵送する、負担もコストもハンパでなかった。

 そのミニコミのパイオニアとも言える1972年創刊の『あごら』が2012年に休刊し、あごら九州がその記念誌全3巻を出した。全335号の表紙を撮影したグラビアは圧巻。「雑誌でつないだフェミニズム」という副題がぴったりする。リブに影響を受けた斎藤千代さんが主宰したこの雑誌は、やがて各地にタネを撒いてあごら札幌、あごら京都、あごら九州など全国のネットワークを生んだ。地方あごらが交替で編集を担当するというユニークなやり方で、本部-支部の関係ではない、地方色を色濃く出した。その斎藤さんが病に倒れてから、手つかずになっていたデータを九州あごらが整理したものである。1、2巻は『あごら』掲載の斎藤さんの文章の収録、3巻は特集を通じて時代の歩みを追った。
 長崎を拠点とした「ばってん・うーまんの会」も『長崎「ばってん・うーまんの会」の軌跡』を昨年刊行して、73年から40余年にわたる活動に「一区切り」つけた。副題に「時代に先駆けたフェミニズムのあゆみ」とあるのが誇りに満ちてすがすがしい。
 若いNPOも解散する。名古屋で子連れコンサートを93年から2015年まで主催してきたNPO「SKIP」が『SKIP終結宣言 私たちNPOを解散します』を出した。ミニコミは活動の手段。ほんとうにやりたいことは、社会を変えること。コンサートに子連れで行くことがひんしゅくを買っていた時代に、そんなら平日午前中に子連れママたちのための一流のコンサートをやろうと乗り出した若い主婦たちがいた。20年経って託児付きの講座やイベントが珍しくなくなった頃に、歴史的使命を終えたと解散した。「わたしたち、事業をマネジメントすることも、企業と連携することも、みんな先駆けてやってきた」という自信にあふれたメンバーたちは、「おもしろかったね」と次のステップに踏み出すことにした。だから解散も潔い。
 ミニコミの老舗といえば地方女性史のグループ。3年に1回全国女性史交流の集いが今でも開催されているが、その担い手たちも高齢化した。その人たちの出したミニコミがやはり散逸の危機にさらされている。担い手が亡くなれば、遺族にとってはゴミ同様だろう。女性教育会館をはじめとした全国の女性センターはそれらのミニコミを収集したり収蔵したりする、予算の裏付けも人的余裕もない。
だから始めたのが認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のサイト上にある「ミニコミ図書館」である。ウェブの容量はほぼ無限大。そこにどこからでも誰でもアクセスできる。国会図書館が定期的にWANサイトを保存してくれることにもなった。これで「女の財産」が消滅を免れる。いずれ後から来る者たちに、先を歩いた女たちの足跡を、きっと見つけてほしいと願いながら。
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上野千鶴子さんの『毎日読書日記』は今回で終了します。4年間にわたる連載の内容は新刊『時局発言!読書の現場から』(上野千鶴子著・WAVE出版)に収録されています。