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宇宙に向かって飛び立つロケットの映像が人類の〈夢〉の象徴だったようなイノセントな時代があったんだな・・・冒頭、1957年のソ連による人工衛星スプートニク1号打ち上げ映像を見た時、ふと胸がしめつけられるような思いにかられた。宇宙開発=軍事利用という図式に慣れた、夢なき時代を生きる私たちの目の前に、しかし、本作は、限りなく淡い口あたりの良さで、〈アメリカン・ドリーム〉を提示してみせる。まるで穢れ知らずの無傷な夢でもあるかのように――
主役を務めるのは、三人のアフリカ系アメリカ人女性数学者たちだ。スーパーコンピューター登場以前の時代、宇宙開発でソ連に先を越されたアメリカが1958年に設立したNASA最古の研究施設、ラングレー研究所で、〈人間コンピューター〉として裏方を務めた実在の女性たちである。原題Hidden Figuresどおり、これまで歴史の中に埋もれた存在だった彼女たちの足跡が、初めてスポットライトを浴びた。
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とりわけ焦点をあてられているのが、ヒロイン、キャサリン・G・ジョンソン(1918年~)。10才で高校入学を許されたほど数学の才に恵まれた彼女が、黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に抜擢され、国家の威信をかけた〈マーキュリー計画〉に貢献し、周囲の信頼を勝ち得ていく姿が、テンポよく描かれる。
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有色であり、女性であるという二重のハンディを背負った彼女が、用を足すのさえ、別棟の〈colored ladies room〉まで走るシーンが何度も挿入され、南部に根強い「分離すれども平等」(Separate but Equal)という人種分離(segregation)の欺瞞を伝える。
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闘う相手は白人男性エリート集団だけではない。三人の内、最も年長のドロシー・ヴォーン(1910~2008)は、管理職への昇格を希望するが「黒人グループに管理職はおかない」と言い放つ白人女性エリートと、対峙しなくてはならない。
自分だけでなく、仲間たちと共に生き残ろうと奮闘する頼もしいドロシーを、『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2011)のメイド役で英米のアカデミー賞、ゴールデングローブ賞で助演女優賞を総なめにしたオクタヴィア・スペンサーが素晴らしい存在感で見せる。
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時代設定は、1961年から62年。ケネディ暗殺以前、公民権運動の嵐が吹き荒れる以前だ。キング牧師の姿もTVに映るにとどまっている。衣装も風俗も、60年代的というより、むしろ50年代の「古き良きアメリカ」の延長テイスト。
邦題を生ぬるく感じる人は多いと思うが、意外に作品の本質をついている!
あのケヴィン・コスナーが信念をもって宇宙開発事業にうちこむ上司役を演じ、存在感が際立つ。white savior trope(黒人を助ける白人を登場させる映画的手法)の一種かもしれないが、純粋に素敵!コスナー・ファンも必見だ。
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宇宙開発ものといえば『ライトスタッフ』(83)の描く7人の宇宙飛行士のヒーローぶりを思い出すが、本作は、まさにそのライトスタッフ(the right stuff)/職務にふさわしい資質をもちながら、それを十分に発揮することが困難だったた時代に、あくまで地道に、忍耐強く、最大限の努力で、自らを生かす道を切り開いた女性たちの姿を、丁寧に描き出す。
窮地に陥った時や、ここが勝負、という時、彼女たちが用いる、自らの正当性を相手に適切にアピールするコミュニケーション術は、日本人にはない発想で参考になる。
生き残りをかけた人たちに勇気を与える使命を果たす、アメリカ映画らしい作品だ。
9月29日(金)TOHOシネマズシャンテ他、勇気と感動のロードショー!
20世紀FOX映画
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