撮影:鈴木 智哉

ケース
テキサス州で、妻と離婚しました。子どもの保護親は妻と決まり、妻は裁判所の許可なしで州外に子どもを移動させることが禁じられました。妻は裁判所から制限付き許可を得た上で子どもと日本に転居してしまいました。私は、テキサス州内の裁判所で、裁判所の許可を修正する決定を得るとともに、妻に対する子どもを私に引き渡せという決定を得ました。この決定は日本で効力が得られるでしょうか。

 NO.72から、外国裁判所の確定判決が日本で効力を持つためには、民事執行法24条の執行判決を得る必要があること、そのための要件は民事訴訟法118条1号から4号であることを説明しました。今回は、そのうちの、「相互の保証」(4号)を取り上げます。

 ◎実質的に同じといえればOK
「相互の保証」(民事訴訟法118条4号)とは、最高裁(最判昭和58年6月7日民集37巻5号611頁)は、判決国において、日本の裁判所がした同種の裁判所が同条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有することをいう、としています。というのは、外国判決の承認について、判決国が日本と全く同一の条件を定めていることは条約がある場合でも無い限り期待することが困難であるからです。今日の国際社会では同一当事者間に矛盾する判決が出現するのを防止し、権利の救済等をはかる必要が増大していることからしても、判決国における外国判決の承認の要件が日本のそれとぴったり同じとはいえなくても実質的に同じであればいいのである、と実際的なニーズを踏まえた判断です。

 ◎子の引渡しを命じた外国判決についての判断
さて、ケースのもととなった東京地判平成4年1月30日家月45巻9号65頁では、このように検討しました。

テキサス州の家族法第11章第B節「未成年の子の監護に関する裁判管轄権についての統一法(ユニフォーム・チャイノレド・カストディ・ジュリスディクション・アクト)」は,基本的には,アメリカ合衆国内の各州の裁判管轄権の競合矛盾衝突等が子の監護養育に悪影響を及ぼしかねないところから,その弊害を是正することを目的としたものであって(同法第11・51条参照),テキサス州の裁判所は,アメリカ合衆国内の他州の裁判所がなした子の監護等に関する決定は,その決定をした裁判所が当該決定事項について裁判管轄権を有するかぎりは,これを承認して執行すべきものと定めています(同法第11・63条)。
しかし、同法はさらに,これをアメリカ合衆国以外の外国の裁判所による子の監護に関する決定についても拡大して適用することとしています。すなわち、同法第11・73条は,他州の裁判所による子の監護に関する決定の承認及び執行に関する同法第B節の規定は,他国の同種の関係機関等が発した監護に関する決定の承認や執行についても,その決定手続について,関係当事者に対して合理的な通知がなされ,かつ争うための合理的な機会が与えられたかぎりは,適用されるものと定めています。
そして同法が子の現実の監護(PhysicalCustody)に言及していることからすると(第11・52条(8),第11・54条,第11・58条b,第11・59条a(3),第11・61条a,第11・69条b),子の監護に関する裁判中には,本件のテキサス州による判決(本件外国判決)のように,子の現実の引き渡し等を命ずる裁判も含まれるものと推認しました。 そうすると、本件外国判決中,夫が執行判決を求めている子の引渡しを求める部分と同種の日本の裁判所が発する判決決定等も,同法第11章第B節第11・73条により,テキサス州において承認されて執行できるものとされているので、この点に関し日本とテキサス州との間には「相互の保証」があると解される、と結論づけ、夫の申立を認め、執行判決を下しました。それにより、夫は新たに日本で子の引渡しの審判の申立てをすることなく、子の引渡しの執行ができることになったのです。
なお、被告(母)は,テキサス州家族法第11章第B節により承認執行の対象とされている裁判中には、子の扶養に関する決定が含まれていないから,日本の子の扶養に関する裁判については,相互の保証がないと指摘しましたが、それは「養育料」の意味に解すべき部分であり、引渡しではないとされ、斥けられています。

裁判例の蓄積などから踏まえなければならないところで、弁護士でも難しいのが執行判決の要件。執行判決を得る必要がある場合は、とりわけ、ご自分で検討せず、弁護士に相談することをおすすめします。