撮影:鈴木 智也

ケース1
  元夫は、離婚裁判のときに、私が元夫名義の預金を無断で解約して「横領した」等とありもしないことを言って、「紛失した」預金相当額として1000万円以上の財産分与を請求してきました。当然のことながら、判決は、横領の事実など認められないとして元夫の請求を斥け、私と元夫双方が請求していた離婚を認容しました。ところが、元夫が、私に対して、「横領」した預金は「不当利得」だから返せと言ってきました。どうしたらいいでしょうか。

 ケース2
 元妻と財産分与を含む離婚協議が完了して2年以上経ちました。ところが、元妻は、協議の際に、元妻名義の財産を隠していました。再度財産分与の調停をすることはできますか。

 財産分与の協議・審判・判決によっていったん財産分与の内容が決まったけれど、やり直したいー。そんな思いにとらわれる人もいるでしょうが、蒸し返すことが認められてしまったら、紛争はいつまで経っても終わりません。そんな蒸し返しは認められません。ですから、合意等する際に十分考え抜いてください。とはいえ、他方配偶者が本当はもっと財産があるはずなのに隠している、ずるい、などと、100%納得ができなくても、証拠上審判や判決になったらこの程度になる、という見通しも踏まえて、決断するしかないのです。

 ◎同一紛争の蒸し返しは認められない
 ケース1のもとになった東京地判平成4年1月23日判時1439号136頁で、元夫が以前の離婚訴訟中元妻が同居中元夫名義の預金の無断解約等により3,000万円以上横領したとして、財産分与として1170万円払えなどと主張しましたが、離婚を認容した判決(前判決)は、横領は認められないとし、むしろ元夫から元妻に500万円支払うよう命じました(控訴審では100万円に減額)。
 財産分与を含む離婚判決が確定した後、元夫が元妻に対し、別途不当利返還請求訴訟を提起しました。裁判所は、元夫の請求は、実質的に同一の争点に関する紛争の蒸し返しであることは明らかであるとして、請求を棄却しました。

 ◎新たに財産が発見された場合
 財産分与の審判等が確定した後に、分与対象のはずだった財産の存在が明らかになった場合、再度の申立てが認められます。ただし、2年間の除斥期間を超えていれば、認められません。
 また実際上、離婚し疎遠になった他方が財産を故意に隠していたことが判明する、ということ自体珍しいでしょう。
 ケース2の元になった浦和地裁川越支判平成元年9月13日判時1348号124頁では、元妻が婚姻費用の中から工面して、元夫名義で購入していた国債等を、元妻が秘したまま、離婚協議が成立してしまいました。その後2年が経過した後で、元夫がその国債等の存在を知って、売却処分をし、売却益を取得したという経過があり、元妻のほうから、元夫に対し、債権侵害として損害賠償請求をした事案です。
 元夫は、反訴し、国債等は実質的に共有財産であり、財産分与の対象とすべきだったのに、元妻がこれを秘したことにより、元夫の元妻に対する財産分与請求権を行使することができなかった、元妻が全額について損害賠償請求することは、権利濫用である等と主張しました。裁判所は元夫の主張を認め、元夫の共有持分侵害の主張を認め、元夫に、元妻に対して国債等の売却益の全額でなく半額の限度で支払うよう命じるに留めました。

 故意の財産隠しはトラブルのもと。フェアに解決することが、紛争の再燃を防ぎ、結局自分のためにもなります。離婚後も引きずらないよう、バレませんようになどと隠さず、すっきり一件落着させましょう。