
幼児教育の本といえば、「知育」「頭の良い子を育てる」「○歳では遅すぎる」等とうたった、親の競争心をくすぐるハウツー本がたくさん出版されています。本書はそうした本とは異なり、幼児期の子どもにとって大切なことは何か、それを守るために大人たちは何ができるかを深く考察するエッセイです。
著者の山下太郎さんは、京都市左京区にある北白川幼稚園(別名「お山の幼稚園」)の園長です。京都大学で西洋古典学を修め、12年間大学で教鞭をとったのち、園長になられました。幼児教育は小・中・高・大へと続くすべての教育の根っこであるという信念のもと、ユニークな教育実践をされています。
たとえば、幼稚園へはバスで通うのが一般的ですが、北白川幼稚園では徒歩で登園するスタイルを続けています。子どもたちは集合場所に集まり、先生に引率され、お友達と手をつないで、1キロほどの道を雨の日も風の日も歩きます。そうすることで、自然とからだが鍛えられ、我慢する力や、お友達を思いやる心が育まれます。
また、お山の幼稚園はその名の通り、お山の上にあります。豊かな自然に恵まれた環境のなか、子どもたちは植物や虫を観察したり、野菜を育てたり、森に探検に行ったりと、生き生き伸び伸びと過ごしています。
著者は、学科教育の先取りとしての早期教育には、子どものフィロソフィアを失わせるものであるとして批判的で、幼児期は五感、好奇心、自己肯定感、仲間への信頼を養う大切な時期であると述べています。
子どもの無限の可能性を信じ、小さくても一人の人間として子どもに接することで、子どもはすくすくと成長でき、親も心穏やかに成長できるというメッセージは、子育てに迷いや悩みをもつお母さん、お父さんにとって大いなる励ましとなることでしょう。
教育とはわが子の成功(=親の自己実現?)のためにあるのではなく、社会を支える公の人を育てるためにあるという著者の意見は、ともすれば私的なものに埋没しがちな現代社会の風潮に一石を投じるものでもあります。
「ぐりとぐら」シリーズの著者・中川李枝子さんは、「目の前の子ども一人一人がよくわかり、いっそういとおしくなる」と本書に推薦文を寄せてくださいました。
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