
書名のとおり、子育てをしながら建築を仕事にしている男女各8名の体験談。
ゼネコンやハウスメーカー、設計事務所や構造設計事務所に勤める人、または運営する人等、さまざまな組織・立場で建築に関わる16人だ。
そう、意外と両立している男性は居た。それも週末の家族サービスやお手伝いレベルではなく、二人三脚で関わっている男性たちだ。朝の支度から、保育園への送り、お迎え時間までの仕事のきりもり、帰宅後の食事・風呂・寝かせつけまで、一日を乗り切る悪戦苦闘や焦りは母親のそれと変わらない。むしろ騒ぎ立てず淡々と取り組む姿が清々しかったりする。
この本の企画を、編者である成瀬友梨さんからお声がけいただいた時は、すぐには前向きな捉え方ができなかった。どうしても、両立=女性という先入観があったから。そんな本をつくったとして、「結局、頑張っているのは女性だけ」であることを浮き彫りにしても、読む前から疲れてしまいそうだ。
そこへ、「男性も入れたほうが良いよ、探してみなよ」というアドバイスを夫から受けた。そうかな…と、成瀬さんと探してみると、思いの外みつかった。ワーキングマザーが注目されがちななか、黙々と両立に励む男性たちが。
彼らの寄稿があって初めてこの本は、育児も仕事も、男女どちらかだけのものではないという前提で読めるようになる。すると、女性執筆者たちのエッセイも生き生きと映り、楽しく読める。育休から復帰したばかりのワーママ、朝4時に仕事を始め、夕方から子どもとの時間を確保する構造家、生まれたばかりの3つ子ちゃん育てに試行錯誤する設計者、十
数年の子育てを振り返るベテランさんまで、スリリングな日常を垣間見て励まされる。
成瀬さんは、助教をされていた東京大学で「(成瀬さんみたいに)仕事をしながら子どもを育てるなんて、大変すぎて絶対に真似できない(したくない)」と度々相談され、問題を感じていたという。才能溢れる若い女性たちが子育てか仕事か選ばなくてはいけないと思っていることに。この本が、そんな不安を抱く学生や若手社会人の、将来像を描くヒントになれば嬉しい。そして、これから子育てに臨む人、奮闘真っ只中の人、彼らと働く同僚や上司など、さまざまな立場から子育ての世界を覗いていただければありがたい。
成瀬さんが最後に書かれたように、子育てに限らず介護や病気など、人は働きながらも「自分一人ではどうしようもない人生」の場面にぶちあたる。そんな時、お互いに受け入れあい、たすけあえる関係を、家庭内だけでなく職場や地域でも築けたらいい。執筆者の職種もたまたま建築だったが、仕事の内容にかかわらず読んでいただけると思う。
(編集担当:井口夏実/学芸出版社)
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