撮影:鈴木智哉

ケース1 前夫が審判で定められた養育費を払ってくれません。どうしたら払ってもらえるでしょうか。

ケース2 前夫が再婚したようですが、代表取締役を務めていた会社が破産し、個人としても破産を申し立てています。子どもの養育費を払ってくれません。間接強制が認められるでしょうか。


 ◎直接強制執行以外にも様々な方法がある
  養育費を払ってもらえない。そんなときはまず、相手にどうしたのか確認できるようであれば、確認し、請求するとよいでしょう。ケース1のように調停や審判など裁判所での手続で定められた養育費の不払いであれば、履行勧告を家庭裁判所に申し出ると良いでしょう。申出を受けた家庭裁判所は、相手方に、支払い状況を調査し、義務の履行をするよう勧告してくれます(家事事件手続法289条1項7項)。履行命令を申し立てることもできます。家庭裁判所は、相当と認めるときは、相手方に対し、相当の期間を定めて義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができます(同法290条1項)。履行を命じられたのに正当な理由なく命令に従わない場合、家庭裁判所は10万円以下の過料に処することになります(同条5項)。
 また、間接強制(民事執行法167条の15・1項、172条1項)を家庭裁判所に申し立てることもできます。間接強制執行とは、裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、または相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債務者に支払うべき旨を命ずるものです。これにより、債務者に心理的に支払いをしなければ、と思わせようとします。養育費の間接強制の事例としては、審判(月5万円)に基づき1日につき1000円の間接強制金(広島家決平成19年11月22日家月60巻4号92頁)の支払いを命じた例などがあります。

 ◎直接強制執行
 しかし、相手方の給与債権などわかっていたら端的に差押えするのが実効的かもしれません。
 給料など継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押えの後に支払われる給料などにも及びます(民事執行法151条)。たとえば6月分まで未払いがあると7月申し立てたとして、申立て時点では期限がきていない7月分以降も差押えができます(民事執行法151条の2)。7月分の未払いについて8月にまた差押えの申立て、8月分の未払いについては9月に…といったことがしなくてすむのです。
 
 ですから、ケース1の場合、協議のほか、履行勧告、履行命令、間接強制、直接強制執行などの申立てができます。
 
 ◎間接強制が認められないとき
養育費のような扶養義務にかかる間接強制は、債務者が支払い能力を欠くためにその債務を弁済することができないときまたはその債務の弁済によってその生活が著しく窮迫するときは行わないことになっています(民事執行法167条の15・1項ただし書)。
 ケース2のもととなった大阪家審平成17年10月17日家月58巻2号175頁は、義務者は再婚し子どもをもうけていましたが、代表取締役を務めていた会社の経営悪化を理由に、権利者である前妻に二子の養育費を支払わなくなってしまいました。会社は破産し、会社の連帯保証人をしている個人としても破産を申し立てていました。前妻は間接強制を申し立てましたが、裁判所は、債務者の収入,資産の状況,生活の現状等によれば,本件債務者には資力がないことが推認され,民事執行法167条の15・1項ただし書に規定されている,支払能力を欠くためにその債務を弁済することができない場合又は弁済をすることによって生活が著しく窮迫する場合に当たるとして、申立てを却下しました。
 もっとも、養育費請求権は非免責債権(破産法253条)です。上記審判はその点に触れ、支払い義務が免除されるわけではないとし、早急に支払うよう付言しました。