チリでは今、全国各地の大学キャンパスが女子学生たちによって〈占拠toma〉されています。
この〈占拠〉の目的は、大学内での性差別やセクハラ・性暴力へ抗議し、適切な調査と再発防止策を求めると同時に、性差別のない教育を実現するため。
チリ史上初、ジェンダー平等を求める女子学生たちによるフェミニズム運動です。
4月、チリ南部にあるアウストラル大学とチリ大学法学部での抗議に端を発した今回のムーブメント。フェミニズムの歴史は通常「波 ola」で喩えられますが、現在チリのマスコミでこの運動を取り上げる際に見られるのは「フェミニズムの津波 tsumami」という表現。地震大国であるチリでも「tsunami」は外来語として定着しています。「tsumami」という言葉から、今回のムーブメントがもつ社会的影響力の大きさが伝わってきます。
●フェミニストの〈占拠〉が始まる
5月初旬、在外研究の滞在先である国立チリ大学の女性研究者から、メールを受け取りました。
「今、キャンパス内でのジェンダー暴力の可視化と抗議のために、女子学生たちが社会科学研究棟を占拠して、閉鎖しています。集会へ参加する女子学生しか立ち入りできません。」
チリ大学は5つキャンパスがあります。法学部で始まった運動に呼応したようです。
早速、人文社会科学系キャンパス〈占拠〉の主催者の女子学生に連絡を取ってみたところ、複数の女子学生が教員や男子学生からセクハラや性的被害を受け、大学側に被害を訴えたものの二次被害にあう状況であり、事態が一向に改善されないために〈占拠〉という手段に出たとこと。
机を並べて受付(?)をしていた学生たち(男女1組)に経緯を聞いてみました。学内で性的な被害が発生しているとして、次のように話してくれました。
「この占拠は5/11から始めた。被害者が学生だと大学側も取り合ってくれない。被害者が教員とか研究者の場合は違うけど。加害者も被害者も、複数いるよ。」
「表の窓に証言が貼ってあるから、見てみて。」
女性器をモチーフにした壁画が描かれています。ラテン・ミュージックを流し、学生たちは楽しそう。
続いて、同キャンパス内のジャーナリズム研究棟でも占拠が開始されました。
右の写真の壁画は元からあるもの。軍のクーデターで非業の死を遂げたアジェンデ元大統領の名前も。
いつの間にか、キャンパス内にはフェミニスト的メッセージが至る所に書かれています。
この運動は大きな広がりを見せ、5月末の時点で、全国23大学でストライキ、27大学で〈占拠〉や〈ストライキ para〉が行われました。
サンティアゴ市内にあるチリ大学へ行く際に、市バスに乗るのですが、道すがらあちらこちらの大学で〈占拠〉が行われているのを目にします。
〈占拠〉のスタイルは、女子学生だけが参加できる「分離主義」を取るものから、上記のような賛同する男子学生の参加を認めるものなど、さまざまです。
「分離主義」のスタイルを取った運動のなかでは、女性たちだけで性被害や性差別などの経験を語り合い、経験を分かち合う、コンシャスネス・レイジングを行うものも。
5/16には、サンティアゴ市内で女子学生たちによる大規模なデモが行われ、2011年に盛り上がった学費無料化運動以来、もっとも多くの参加者がありました(主催者チリ学生連合(Confech)の発表で15万人、警察発表では2万5000人)。
アントファガスタ、バルパライソ、コンセプシオン、テムコ、バルディビアなど、全国の各都市でもデモがありました。マスコミでも大きく取り上げられ、新聞の一面を飾り、テレビやラジオでは討論番組も企画されました。(つづく)