ラトビアで考えた、女性医師の割合ランキング(31ヵ国目/世界一周)
前回のギリシャからマケドニア、コソボ、ブルガリア、ルーマニア、モルドバ、ウクライナ、リトアニアを越えて、今回は、ラトビアの首都リガに来ました。世界経済フォーラム(WEF)によると、ラトビアのジェンダーギャップ指数は調査対象144カ国のうち20位。中でも、教育分野で1位、保健分野で1位とこれらの項目で非常に好成績をおさめています。日本の114位と比べると、男女平等がとても進んでいる国という印象です。東京からラトビアのリガまでの距離は約8100km。直行便はないため、乗り継ぎ一回の最短ルートで13時間ほどかかります。
ヨーロッパの首都には、必ずと言っていいほど第二次世界大戦に関する博物館が存在します。例えば、リトアニアの首都ヴィリニュスにはKGBジェノサイド博物館、ウクライナの首都キエフには大祖国戦争博物館、ブルガリアの首都ソフィアには国立軍事史博物館など、ほとんどの国が第二次世界大戦の忌々しい記憶を残しています。現在滞在しているラトビアも例外ではなく、宿から数百メートル離れた地点にはKGB博物館が。多くの第二次世界大戦の負の遺産に触れることで、考えさせられることが多くあります。それぞれの国が持つ暗い歴史を知ること、考えることは、今に生きる私たちの義務なのだと考えさせられる日々です。
さて、ラトビアといえば、冷戦時代は旧ソ連に属した国であり、バルト三国の一つです。最近ではその美しい旧市街の街並みを求めて、日本人観光客も多く訪れるようになりました。そんなラトビアは、女性医師の比率が非常に高いことで有名です。経済協力開発機構(OECD)加盟国中1位であり、7割を超えています(注1)。日本は約2割ですから、この数字がどれだけ大きいのかがわかるでしょう。そして、どれほど女性の社会進出が進んでいるのだろうか、と思わされます。
いったいなぜラトビアは、このように女性医師が多く生まれているのでしょうか。医師の男女比についての年代別グラフを見ると、ラトビアでは若年層や中間層だけでなく、65歳〜74歳の年代でも女性が約7割を占めており、全世代において女性医師の割合が高いことがわかります。このことから、ソ連時代からの影響が大きいことは確か。その証拠に、旧ソ連に属していたエストニアとリトアニアが同ランキングの2位と3位(全世代)にランクインしており、OECD加盟国ではありませんがロシアやウクライナも女性医師が6〜7割を占めています。日本では考えられないような数値をこれらの国々は出しているのです。
女性医師の割合が高い理由として、ソ連時代に作られた女性も進学しやすい教育システムの伝統と、医師の給与が低く平均給与レベルであることが挙げられます。そもそも、ソ連時代における医師の地位は低く、低賃金でした。それゆえ人気もなく、医師となるのは夫の給料で食べていける生活レベルの女性が大半。そのためソ連の医療技術は大きく後退し、1991年のソ連崩壊の際には見かねた西側諸国が医療支援を行ったほどです。そして、今でも賃金は西欧に比べると低く、男性からの人気は低いまま。このような背景があり、旧ソ連諸国では、今でも女医の占める割合が高いのです。
確かに、ランキングだけを見ると、ラトビアを始めとした旧ソ連諸国での女性医師の占める割合は非常に高いです。しかしながら、歴史的背景を無視して、単純に「ラトビアやエストニアやリトアニア、ウクライナやロシアなど旧ソ連の国々では女医の割合が多い。見習おう」とするのはおかしいと思うのです。女医が多いことが必ずしも良い背景をもとに成り立っているわけではないことや、数値化したものを単純に称賛して良いわけではないと思います。ランキングやパーセンテージだけを見るのではなく、どんな過去をもとに現状が成り立っているのか、どんなからくりがあるのか、を見抜くことこそ大切なのだと思います。(佐野仁美)
(注1)参照したデータは、OECDの「Health at a Glance 2017」。その元データが「OECD.Stat」です。関連するデータを日本語のブログで分かりやすくまとめてあるのは、いくつかありますが「世界各国比較|医師の男女比ランキング・年代・診療科別」(2017/11/1 Labcoat https://labcoat.jp/doctor-men-women-ratio/ 2018年11月9日取得)などご参照ください。