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森巣博ノススメ 宇都宮めぐみ

2010.02.18 Thu

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<p>いきいきとしていて、思わずお腹がなってしまいそうなannaさんのエッセイを、行ったこともないメキシコに思いを馳せながら読ませて頂きました。一人暮らしを初めて10年近くが経つというのに、最近ようやく“レシピを見なければ美味しい料理が作れない”ことに気付いた私は、もしかしたらセンスがないのかもしれません(今更?)。美味しいものを食べるのは大好き、作るのは苦ではないしできれば美味しいものを作りたいけど、実はそんなに向上心もない・・・という私にとって、料理との付き合いはこれからも紆余曲折あるような気がします。<!–more–></p>
<p>料理といかに付き合っていくのか――家事を、「毎日毎日同じことの繰り返しで、つくづく未来のない作業だとは思うのだが、同時に、家事がなければ未来もない」、だから、「わたしは心をこめて料理する」と言ったのは、森巣博です。世界的に著名な研究者である「妻」と天才的知能をもつ息子との、三人の夕食のためのヒレカツを揚げながら。<br /><a href="http://amazon.co.jp/dp/4087475050">『無境界家族』</a> は、博奕打ちの森巣博が、「妻」の「単身在任」に始まる家族の日々ことを書きながらも、国民国家を斬り、ナショナリズムを斬り、日本文化論を斬り、セクシズムを斬る一冊です。そして、とんでもなく思い切り良く、かつ思慮深い語り口で綴られるそれらのエッセイには、ところどころ質の良いグルメが顔を出します。シドニーの魚市場のマグロに、イクラの握りとカリフォルニア・ロール、ヴォウクルーズにある名店の数々・・・またもや行ったこともないオーストラリアに思いを馳せつつも、何より私にとってリアルだったのは、森巣が揚げるヒレカツと付け合せのキャベツの千切りなのですが。</p>
<p>とは言っても、料理つながりで森巣を紹介すると、“看板に偽りあり”となってしまいます。様々なものを斬る森巣が本書で示す最も簡潔な主題は、「排除と差別の論理によって少数者が抑圧される社会とは、じつは多数者にとっても住みづらい社会である」ということ。セクシズムを批判し、フェミニズムを援護射撃する彼が、思索を重ねながらテキトーに「妻」や息子を見守りつつ、時にはカシノ(“カジノ”ではない)に向けて勝手に飛翔しつつ、家族の話を書くはずが様々に脱線しながら語る様は、やっぱりとびきり面白い。超個性的な面々がそれぞれやりたいことをやりながら、なぜかバランスがとれている“変な家族”。それが彼らにとっては最も居心地の良い状態なのでしょう。もちろん、きっと“普通”はこうはなれない。子育てなんぞどんどん手を抜けば良いのだ、なんて言われても、やっぱり“普通”は難しいかもしれない。しかし、その“普通”とは何なのかを問う、いくつもの刺激的なエッセンスが含まれている一冊です。</p>
<p>そんな森巣博の作品を、さらに二冊ほど紹介しておきたいと思います。</p>
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<p>一冊は小説『セクスペリエンス』。オーストラリアを舞台に、カシノや大学、法律事務所やベッドで、女であるがゆえに傷つけられた女たちが、女であることを武器にやり返す。「SEXPERIENCE」というタイトル通り、様々なセックスが女たちを取り囲む。男である森巣がそれを描き、そして女とともにセクシズムに闘いを挑む本書には、随所にフェミニズムが築いてきた思想が、戦略が、散りばめられています。ちなみに本書にも、フィレ・ステーキやらヴェニソン(鹿肉)やら、ちらほら顔を出しますが、きっとそれ以上に印象的なのは「下穿き」という言葉と、カシノという高揚と絶望と快感の場ではないでしょうか。<br />こんな女、本当にいるの?まったく、どれだけ刺激的な毎日を送ってるんだか・・・と呆れつつも、彼が描く女のしたたかさ、悔しさ、気持ちよさ、一方で男の狡猾さ、恐ろしさ、愚かさを、そして両者が織りなす(などという生半可なものではないけれど)スリリングな勝負を、一度吟味してみてはいかがでしょうか。</p>
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<p>最後に挙げるのは、出版から1年も経っていない、最近の森巣博の思考が伺える一冊『越境者ニッポン』。無境界から越境へ・・・本書で森巣が切るのは愛国心、メディア、教育、ドラッグ、賭博、ジェンダーにレイシズムなど、多岐にわたります。先に挙げた二冊からも伺えますが、本書もやはり挑戦的な一冊です。(そもそも帯や著者近影の写真からして、すこぶる挑戦的。)<br />「チューサン階級」(中学三年生程度の知識の持ち主)を自称する彼が、「日本、どうなってるの!?」と率直かつ鋭く問うていく本書でも、森巣節は健在ですが、「勢いありすぎ」とも言えるほどの思い切りの良い問題の立て方と論理構成であるからこそ、日本に生きる私たちに何が見えていないのかをより明確に示してくれると言えます。<br />本書では多岐にわたるトピックが取り上げられていると先に書きましたが、しかし、それは当然のことです。<a href="http://amazon.co.jp/dp/4087475050">『無境界家族』</a> から通底している彼の姿勢は、ナショナリズムや愛国心、ジェンダーにレイシズム・・・と、それらを射程に入れないことには、育児も家事も家族のことも博奕のことも自分自身のことも、何も語れなくなってしまうということだからです。そうして縦横無尽に、様々な思想や本や事件や個人的経験をめぐりながら、時に的を射た悪態(?)をつきながら紡ぎ出される森巣博の世界、恐らく合う合わないはあるかもしれませんが、一読の価値があるのではと思います。</p>
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<p><a href="http://wan.or.jp/book/?p=204">次回「「私はそうは思わない」と思いながら『真昼の星空』を見ようとしていたい」へバトンタッチ・・・・つぎの記事はこちらから</a></p>







カテゴリー:リレー・エッセイ