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今回は理事の赤沢千鶴(あかざわちづ)さんが、
朝日新聞の取材を受け、「変革者たち 岩手と平成」に掲載されましたのでご紹介します。

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変革者たち・4  岩手と平成

生きづらい女性 解き放ち
気づかぬうちにはまっていた「女性の枠」。そこから解き放たれたとき、見えてきたものがあった。

 出すぎた杭は打たれない―。
女性の地位向上のため、20年あまり活動して得た実感だ。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)で理事を務める赤沢千鶴(66)。今でこそ、女性をめぐる差別や格差解消のために日本全国をとびまわっているが、はじめから女性問題に敏感だったわけではない。


 転機は43歳の時。1996(平成8)年、盛岡市役所で働いていた赤沢は、青少年女性室に配属され女性政策担当になった。女性政策は初めて担当する分野で、「ジェンダー」という言葉も知らない状態からスタートした。
 その頃も、「家事は無償労働」として低く見られる傾向が岩手でもあり、女性への暴力なども問題となっていた。解決に取り組む「女性センター」は国内各地でつくられ、盛岡では市民団体の「もりおか女性の会」が設置に向け活動していた。
 かつて、岩手の沿岸部では父親から「北上山地を越えさせない」と言われた女性たちがいた。進学や結婚で遠くに行ってしまったら、故郷にはもう戻ってこないのでは―という不安からだった。「岩手は保守的で、男女で役割分担する意識が根強い」と感じていた赤沢。生きづらさを抱えた女性が駆け込める場所作りに貢献しようと、女性の会と市が開く勉強会に参加するようになった。99(平成11)年には他県の女性センターを視察した。
 「男は仕事、女は家事」といった性別による役割分担が「女は結婚したら仕事を辞める」などの差別意識につながっていることを学んだ。「『女はこう』と決められた枠に自分もはまっていたかもしれない」。女性の会との関わりを通じてそう思うようになった。
 夫の両親や祖母と同居していた赤沢は、出産後も男性と同じように働き、残業もいとわなかった。定時で切り上げ子どもが待つ家に急ぐ同僚の女性からは「いいよね、家に帰ればご飯ができていて」と言われた。しかし、仕事を優先する赤沢に代わって自宅の食事は義母や祖母が作る、という役割分担が出来上がっていた。形は違えど仕事と家庭とのはざまでもどかしさを感じていた。
 2000(平成12)年、盛岡に市の女性センターがオープンしたのと同時に、赤沢も配属された。こだわったのは図書コーナーの選書だ。特別な本を置く必要はないと言われたが、女性に関する専門書を集めるべきだと主張した。上司に掛け合い「ダメなら私、仕事を辞めます」と食い下がった。熱意が認められ、予算が付いた。センターのために尽力する赤沢の姿に、次第に文句を言う人はいなくなっていった。
 「目の前の女性に寄り添うこと」も心がけた。引っ越したばかりで近くの幼稚園がわからずに困っている利用者には、教育委員会にかわって市内の幼稚園リストを作った。特に転勤族には喜ばれ、リストを受け取るためだけにセンターへ足を運ぶ人もいた。


 平成も30年が過ぎ、女性を取り巻く環境は変わった。他者を抑圧する行為が「セクハラ」や「パワハラ」として広く認識されるようになり、被害者も声をあげやすくなった。一方で、声をあげた人を支える体制はまだ整っていないと感じている。
 市役所を退職し赤沢はいま、認定NPO法人の理事として、女性に関する情報を集めたウェブサイト運営に携わっている。「性被害者を告発した人はバッシングを受けたように、『出る杭は打たれる』のが今の日本。被害に遭っても自分が悪いと思ってしまう人に、『あなたは悪くない』と気付いてもらいたい」。女性に寄り添いながら信念を貫くうちに、気づいたら「出過ぎた杭」になっていた。多くの女性に「ひとりじゃない」と思ってもらえるよう、そんな自分にしかできないことが、まだまだあると感じている。=敬称略 (御船紗子)

<朝日新聞 2019年1月5日朝刊より 引用>
上記の記事 朝日新聞Web版はこちら
https://www.asahi.com/articles/CMTW1901070300001.html?iref=pc_ss_date

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記事の中に登場するもりおか女性センターの図書コーナーの選書は、
中西豊子さんが経営するウィメンズブックストア松香堂に委託していました。
中西豊子さんについて書かれた「WANなひとびと―中西豊子さん」の記事はこちら
https://wan.or.jp/article/show/7053

朝日新聞 2019年1月5日朝刊より