WANミニコミ図書館でご一緒していた加納実紀代さん、そのお孫さんの作った映画、上映後に監督と上野千鶴子氏のトークもある、と友人に誘われて予備知識を一切持たずにこの映画を観た。
ぶっとんだ!! そして土さんと、そのお母さんである穂子さんに感動してしまった。こんな子育てを思いつくなんて。こんなことができたんだ。やっちゃったんだ!!、と。そして観終わった時、これは土さんの当事者研究だったんだ、と腑に落ちた。

1995年、シングルマザーとなった穂子さんは、東京東中野で共同保育を始めた。共同保育といっても近所に「一緒に子育てをしませんか?」というチラシを配って集まった「見知らぬ」保育担当者たちが、当番制で子どもたちの面倒をみるという保育である。この子育てを、土さんは9才になってようやく「ウチって、ちょっとヘン」と気づいたという。
その環境(当初は普通のアパート、後に他の数組の母子や保育人と共に同じアパートに住んだ)を「沈没家族」と名づけ(「沈没家族」という名称は、当時の政治家が「男女共同参画が進むと日本が沈没する」と発言したのを聞いて腹を立てた穂子さんが命名)、その沈没家族とは何だったのか?、そしてそこで育った自分とは?、自分を産んでくれたヒトは?、そのパートナーは?、を自身が得意なドキュメンタリ-の手法で追っている。

穂子さんは、ごく普通?の核家族に育ったという。ある時期とても苦しい想いをしていたというが、奄美大島にあった「無我利道場」の共同生活の中で共同保育を知った。パートナーと別れてシングルマザーになり、独りで子どもを育てながら生活しなければならなくなった時には母である加納実紀代さんから「戻ってきたら?」と声が掛かったそうだが「そんな積りは、毛頭なかった」そうだ。すごい!! 私なら、こんな状況では間違いなく親を頼ってしまっただろうし、見知らぬ人を募って保育を任せるなどということは絶対にできなかっただろう。
発想もすごいが、行動力はそれ以上。自分が経験したことの無い、未知の世界である「育児」を、見知らぬ人に助けを請うことで乗り切ることを思いつく。自分は学生(夜間の専門学校)と(昼間の)仕事に関わりながら、それでもやりたいことがあったから。世間一般の「良き母」などに振り回されることなく初志貫徹、自分のやりたいことを優先した行動力に魂を揺さぶられた。
土監督は恐らく、何であるかは分からなくとも自分の根っこが「沈没家族」であったことを確信していたのだろう。卒業制作は、だから迷いなく「沈没家族」をテーマに選んだのではないだろうか。
幼かった自分は母親独りではなく「沈没家族」に集まった大人たちに保育されていた、その遠い日のおぼろげな記憶はあってもそれが何だったかを当時はもちろん意識してはいなかった。その記憶を、共同保育に関わってくれた大人たちとの再会と交流、語らいや映像を通して自分の手に取り戻そうと試みた。遠い日の記憶は段々と、昔語りに裏打ちされた「過去の出来事」に形を変えていった。当時の記録映像が残っていたことも、このドキュメンタリーに奥行きを与えている。可愛らしく、のびのびと自由な幼少の土監督が、今なお生きている。
参加している誰もが「フラット」な関係。接していた時間の大小に関係なく、長く離れていても「困った時は…絶対助けるから」と言える間柄。それぞれにとって少しずつ違う「家族」の定義。そう、家族とは個と個が時間を掛けて作り上げていく関係性…なのだ、と思った。
実は、加納実紀代さんとはほんの少しボランティア活動をご一緒させて戴いただけで、特に親しいと言える間柄では無かった。でも、この、とんでもなく素敵で「普通」じゃない土さんと穂子さんを知って、お二人には確かに加納さんの血が流れている…と感動にも似たものを覚えた。
この映画のお蔭で私にとっての「家族」も、きっと進化するに違いない。公式ウエブサイトはこちら。(永野眞理)
現在、ポレポレ東中野にて上映中!ほか全国順次ロードショー
監督・撮影・編集:加納土
出演:加納穂子 山村克嘉 イノウエ 高橋ライチ めぐ 佐藤公彦 藤枝奈己絵 たまご ペペ長谷川
配給:ノンデライコ
制作国:日本(2018)
上映時間:90分
公式サイト:http://chinbotsu.com/
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