フランスから、「母の日」をモチーフに描いた「母たちをめぐる物語」が届いた。原題『LA FÊTE DES MÈRES』は「母の日」の意。『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(14)で問題を抱えた高校生たちの成長の軌跡を描き、群像劇の才能を見せたマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督が指揮をとった。
本作では、大胆にも女性大統領からジャーナリスト、小児科医、大学教授、ベビーシッター、あるいは舞台俳優、花屋の店員、セックスワーカーまで、実にさまざまな仕事につく女性たちが登場する。その一人ひとりが、母であること、母になる/ならないこと、自分を産み育てた母親との関係で悩み、傷つき/傷つけ、壁にぶつかりながらも「家族=人生のある時間をともにしてきた/しようとする大切な人たち」と向き合っていく姿が、多様に描かれている。
「物語が始まる場所はいつも同じ/母親のおなかの中」。これは、冒頭に差し挟まれるナレーションだ。多くの母親は、それが大きな負荷のかかる経験であるがゆえに、ただ産むというだけで力を持って(持たされて)しまう。本音を言うとわたしは、母という存在がまるで創造神かなにかであるかのように形容されたその言葉だけで、反射的に映画から逃げ出したくなってしまった。
だが、本作が眼差しを向けているのは、母/母親という存在を定義することでも、その意味を押しつけることでもない。むしろ、全編をとおして定義や意味の狭間で揺れる母たちをすくい取ろうとしている。
マリー=カスティーユ監督がタクトを振る「母」をめぐる人生のアンサンブルは、一人ひとりのユニークな音色が、どれも、わずかにぎこちなく聞こえる丁寧さをもって優しく響く。決して母親礼賛ではなく、かといって母であることを軽んじているわけでもない。と同時に、一人ひとりが選ぶ家族の在りようについても、どれを賞讃するということもなく、どのような形をとっても一つひとつ、かけがえのないものなのだというメッセージにあふれている。
「母の日」の由来をめぐる、趣向を凝らしたエピソードも興味深い。劇中の一人ひとりの人生や選択をいとおしく、ときに切なく感じ、それらのどれとも違う、ただ自分にとっての特別な「母/家族」と向き合う時間をくれる作品だ。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)
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「母の日」が近づく5月のフランス・パリ。代わりがきかない職務と母親としての役割の間で葛藤する、フランス共和国大統領のアンヌ(オドレイ・フルーロ)。ジャーナリストでシングルマザーのダフネ(クロチルド・クロ)は、思春期の娘の反抗に手を焼いていた。そんなダフネと子どもたちを、ベビーシッターのテレーズ(カルメン・マウラ)が見守っている。一方、ダフネの姉イザベル(パスカル・アルビロ)は、小児科医として働くかたわら、養子縁組の準備をすすめていた。彼女は、母ジャクリーヌ(マリー=クリスティーヌ・バロー)との幼少期の関係が元でトラウマを抱えていた。イザベルとダフネの妹、三女ナタリー(オリヴィア・コート)は、大学で教鞭をとりながら教え子と恋愛関係にある。ナタリーは「母の日」をテーマに講義をするが、世の中の母親たちに対する偏見のせいで、いつも嫌悪を隠しきれない。
他にも、過保護な息子に親離れを促す舞台俳優のアリアン(ニコール・ガルシア)、思わぬ妊娠に戸惑う、花屋で働くココ(ノエミ・メルラン)、息子を国に残し、パリでセックスワーカーとして働く中国人女性(本作で重要な物語を生きているのに、彼女の名前は出てこない。子どもと離れ、異国でセックスワーカーとして働く女性への社会の眼差しについて考えるとあまりに象徴的に思えてしまう。演じるのはラン・チィゥ)など、母をめぐる人々の多様な人生は、めまぐるしく交差していく――。
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5/25~シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開
愛知 6/8~伏見ミリオン座にて公開
原題:LA FÊTE DES MÈRES/2018/フランス/103分
フランス語/カラー/5.1ch/シネスコ/日本語字幕:横井和子
© WILLOW FILMS – UGC IMAGES – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINÉMA
提供:シンカ、太秦、アニモプロデュース、スウィートプレス 配給:シンカ