第一次世界大戦がはじまった翌年の1915年、フランス。夫に先立たれたオルタンス(ナタリー・バイ)は、戦地へ送り出した二人の息子・コンスタンとジョルジュの身を案じながら、同じく夫が出征中の娘のソランジュ(ローラ・スメット)とともに、前線から遠く離れた村で農園を守っていた。
その翌年、収穫時期を前にしたオルタンスは人出が足りないことを心配し、孤児院出身の若いフランシーヌ(イリス・ブリー)を住み込みで雇い入れることにした。彼女の献身的な働きぶりと誠実な人柄に、次第に信頼を寄せるようになるオルタンス。しかし、次男のジョルジュ(シリス・デクール)が休暇で戻ってきたことを機に、彼とフランシーヌが恋に落ちてしまったことで、家族同然だった関係性にほころびが生じていく。折しも、ソランジュが村に駐留するアメリカ兵と親しくなり、よからぬ噂がオルタンスの耳に届いてきた――。
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「落穂拾い」や「種まく人」などで有名な19世紀フランスの画家、ジャン=フランソワ・ミレーの描く、南仏の大地と農民の姿。本作は、それらを彷彿とさせる田園風景の、四季折々の美しさを背景に物語が展開する。そこでくりかえされる農民たちの生活と労働の姿も丁寧に描かれており、ワンシーンごとの人びとの所作が、物語とおなじくらい興味深い。
映画では、戦争がもたらした農業の機械化も描写される。トラクターに乗るソランジュの喜ばしい表情と、その影にただよう、働き盛りの男たちの不在。戦争によって後押しされた技術開発が、人を殺すためにも、生かすためにも使われたという事実が、物語の背後から伝わってくる。
フランス人にとって「大きな戦争(grande guerre)」とは、1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦を指すのだという。4年間の戦いで、当時のフランス人口(約4千万人)のおよそ15%が戦死、あるいは負傷したと言われている。本作は、その大戦の「銃後の女たち」をさまざまに描いた作品だ。
ただ家族を守りたいがために必死で、それ以外の人間への思いやりを欠くオルタンスは、自分たちを支えてくれたフランシーヌを簡単に見捨ててしまう。彼女は、男たちが作った社会の仕組みにも、戦争にも、異を唱えることを知らない。
一方、夫の不在にアメリカ兵と親密な関係になるソランジュは、そのことをオルタンスから咎められても「私はまだ若いのよ」とうそぶいてみせる。自分が、周囲からモラルのない女性だと見なされ、噂という形で静かなバッシングを受けても、それさえ自分のこととして引き受ける潔さをもった女性だ。だが、ソランジュの振る舞いからは、性的に自立した(自己決定のできる)女性というイメージよりもむしろ、この戦争によって膨れ上がったフランスに対するアメリカの性幻想や、その後の第二次世界大戦での、性の政治的利用を強く思い出させられてしまう(――この部分については、メアリー・ルイーズ・ロバーツ著、佐藤文香監訳、西川美樹訳『兵士とセックス 第二次世界大戦下のフランスで米兵は何をしたのか?』明石書店、2015などをご参照ください)。
さらに、本作の主役でもあるフランシーヌは、最も新しい時代を生きる女性として描かれる。それは、彼女がジョルジュに執着せず、シングルマザーとして生きることをキッパリと選択するラストにも現れている。しかし、自分の妊娠を知った彼女が、迷いなくこう言うシーンには驚かされた。「私が育てます/働きます」。そして「息子に人生をささげる/彼は私の名を継ぐ/私のために戦う/私を守ってくれる」と。孤児として育ち、いつか家族を持ちたいと願っていた彼女だからとはいえ、未来の息子を戦場へ送り出すことを肯定する女性の戦争への加担と、そこからの逃れ難さ、罪と紙一重の希望について考えてしまった。
本作の監督は、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作『神々と男たち』などで知られるグザヴィエ・ボーヴォワ。母娘役のナタリー・バイとローラ・スメットは実の親子で、本作が映画での初共演だそうだ。撮影は『夜明けの祈り』などこれまでに100本以上の作品に参加し、『神々と男たち』でセザール賞最優秀撮影賞を受賞したキャロリーヌ・シャンプティエ。音楽は、その名を聞いたら作品を見ずにはいられない気持ちになる、ミシェル・ルグランが担当した。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)
7月6日(土)岩波ホール、7月20日(土)名演小劇場ほか、全国順次ロードショー
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ『神々と男たち』『チャップリンからの贈り物』
原作:エルネスト・ペロション 撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ 音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリーほか
2017年/フランス・スイス合作/フランス語/シネスコ/135分/原題:Les Gardiennes/日本語字幕:岩辺いずみ
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:テレザ、プレイタイム
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