
フィンランドのゲイ・エロティック・アーティスト(注1)、トム・オブ・フィンランド(本名:トウコ・ラークソネン、1920-1991)。黒のレザージャケットに身を包んだ、筋骨たくましい男性をエロティックに描いた作品が有名だ。彼の作品はゲイのイメージを塗り替え、フレディ・マーキュリーやアンディ・ウォーホル、写真家のロバート・メイプルソープ、マンガ『弟の夫』でも知られる田亀源五郎など、世界中、数多くのアーティストたちに多大な影響を与えてきた。フィンランドでは、彼の作品を描いた切手が2014年に発売されるなど(2018年のジェンダー・ギャップ指数、世界110位の日本には考えられないことですね…)、近年アーティストとしての彼を再評価する動きも広がっている。いまや、国際的なゲイカルチャーのアイコン的存在だ。
映画『トム・オブ・フィンランド』は、彼の波乱万丈な人生と、50代後半にようやく作品が表舞台でスポットライトを浴びるようになるまでの軌跡を、同性愛をめぐる社会の変遷/時代の変化とともに描いた作品である。トウコの、性的ファンタジーを作品に昇華するアーティストとしての情熱や才能、同性愛が罪だとされた時代以降の、抑圧をせまられた人々の葛藤と抵抗が静かに、力強く描かれる。風景画家としてトウコと肩を並べる実力をもつ妹のカイヤや、生涯のパートナーとなる恋人のヴェリ・マキネンなど実在の人物たちも丁寧に描かれており、トウコとそれぞれとの関係性や一人ひとりの人生の機微まで感じさせる。彼のアート作品のような、細部への繊細さと朗らかさを併せもった作品だ。
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<ストーリー>
第二次世界大戦後のフィンランド。同性愛は、まだ法によって厳しく罰せられていた。戦争による心の傷を抱えた帰還兵のトウコ(ペッカ・ストラング)は、妹のカイヤ(ジェシカ・グラボウスキー)と暮らし、広告代理店で働きながら、夜になると公園の暗闇のなかでセックスの相手を探したり、自室にこもり、人知れず自分の理想とする男性のエロティックな姿を書き溜めるなどしていた。
30代のはじめに、トウコは生涯のパートナーとなるヴェリ・マキネン(ラウリ・ティルカネン)と出会う。その後、作品がアンダーグラウンドで人気を博してきた36歳の時、トウコは、ゲイ男性に人気があったアメリカのフィットネス雑誌「Physique Pictorial」に自分の作品を送ることにした。「Tom」と署名をしたその作品を見た編集者は、翌年トウコの作品を表紙に起用、作家名を「トム・オブ・フィンランド」と命名する――。
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映画では、トウコがアメリカで展覧会を開催し、つかのま表現の自由と存在の自由を謳歌するシーンや、その後80年代に入ってからのHIV/AIDSの流行とゲイへの過剰なバッシング、繰り返される偏見と当事者たちが対峙しなくてはならなかった状況も示される。
監督は、初の海外作品としてJ・R・R・トールキンの伝記映画『トールキン 旅のはじまり』が公開されたばかりのドメ・カルコスキ。社会の様相と切り離せないアーティストの創造力の源泉を映像でつかまえようとする彼の気概は、次作の『トールキン 旅のはじまり』にも色濃く表れている。本作では、トウコ自身の分身ともいうべきキャラクター「Kake(カケ)」の存在が鮮やかだ。アートは社会を変えてきた、そのことが希望にも映る作品だ。公式ウエブサイトはこちら。
現在、全国各地で順次公開中。9/14(土)より名古屋シネマテークにて、9/21(土)より宇都宮ヒカリ座にて公開!
監督:ドメ・カルコスキ
出演:ペッカ・ストラング、ジェシカ・グラボウスキー、ラウリ・ティルカネン
2017年/フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ/フィンランド語、英語、ドイツ語/5.1ch/シネマスコープ/原題:Tom of Finland/116分
フィンランド語監修:橋本ライヤ/日本語字幕:今井祥子
配給・宣伝:マジックアワー/後援:フィンランド大使館
©Helsinki-filmi Oy, 2017
注1)「ゲイ・エロティック・アーティスト」という呼称は、田亀源五郎さんのエッセイ『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン,2017)で、彼自身のプロフィールに書かれていたものから援用しました。このエッセイの中でも、田亀さんがトム・オブ・フィンランドについて言及されています。
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