本書は、有斐閣ストゥディアのシリーズのなかで社会運動論を扱った本になります。授業のレポートや卒業論文で社会運動を取り上げたいと思っている学生さんを一番の読者として想定していますが、社会運動に関心のある社会人の方にも楽しく読んでいただけるのではないかと思います。

 序章をふくめて全7章から構成されており、前半は「この社会運動には何の意義があるのだろう」という運動の意味を解釈するパート、後半は、「社会運動はどのように形成され展開されていくのか」という運動の隆盛についての因果関係を説明するパートに分かれています。グローバルなサミット・プロテスト運動、学生運動、労働運動、原子力反対運動、保守運動をそれぞれの章で具体的な事例として扱っており、インタビュー調査や参与観察調査、歴史的資料や雑誌記事の分析、ビッグデータを用いた分析など、調査・分析方法も多岐にわたっています。

 社会運動論のテキストはこれまでにも数多く出版されてきましたが、本書はなかなか異質なテキストなのではないかと思います。「問いからはじめる」というタイトルの通り、それぞれの章は各章の執筆者がどのような経緯でその問いを立てたのか、といういわば“自分語り”からはじまります。なぜ社会運動に関心を持ち、研究するようになったのか。その動機は執筆者によって異なります。社会運動に関心を持っている学生さんはもちろんのこと、社会運動の研究って何が面白いんだろうと不思議に思っている学生さんにこそ、ぜひ手にとって読んでもらいたいと思います。「あぁ、なるほどね」と意外と面白く読めるかもしれません。

 もうひとつ、本書はジェンダーの観点に可能な限りこだわったテキストでもあります。執筆者は5名中4名が女性。第一章は女性の保守運動を事例としています。初学者の方でも気楽に読めるように、という思いを込めて、ポップな絵柄の挿絵を書いていただいたのですが、そのジェンダーの表象についてもよくよく検討しました。政治家を女性のイラストにしたり、ジェンダーレスな人物もたくさん出てきたり。文章だけならわかりやすくて読みやすいのに、挿絵がごりごりのジェンダー・ステレオタイプで残念…という、教科書にありがちな事態は生じないかと思いますので安心してお読みいただけます。

 SNSの普及とともに、社会運動の形も多様化してきました。本書をきっかけに、社会運動論に、そして何より社会運動に関心を持ってくださる方がひとりでも多く増えるといいなと思います。

◆データ
書 名 問いからはじめる社会運動論
著 者 濱西栄司・鈴木彩加・中根多惠・青木聡子・小杉亮子
発 行 有斐閣(ストゥディア)
発行日 2020年6月27日
定 価 2200円(税込)