「女性が結婚後も働きたいのであれば教員」「教員の世界は男女平等」。これらは、誰もが一度は聞いたことのあるフレーズではないだろうか。私は、これまで、ワークライフバランスの実現に問題関心を置きながら、研究活動を続けてきた。研究テーマを掘り下げる中で、私は、労働運動を通して家族生活と職業生活の両立を先駆的に切り拓いてきた女性教員を焦点化して、実証的な歴史研究としてワークライフバランス研究の土台を築くことに着手した。

 その成果をまとめたのが、博士論文に基づく本書である。本書は、戦後の労働運動に着目しながら、小中高等学校の女性教員の結婚・出産後の継続就労が可能になった過程を明らかにすることを目的としたものである。

 近年、教員の労働環境の悪さが着目される。しかしながら、1960年代には、労働運動を通じて、自らの望む働き方を求め、実現してきた女性教員たちがいた。本書で取り上げる時代は、教育界において家庭科教育などの分野で「主婦化」が強調され、専業主婦数も増加する時代である。女性教員たちは、専業主婦化が進む時代の渦中において、結婚・出産後も働き続ける権利を求め、現代でいう「非正規雇用」であり組合員ではない産休代替の女性教員や、児童・生徒の母親という、女性教員が日々の労働で関わる組合員以外の女性労働者の実態にも視点を向けることによって、雇用形態の違いや階層差を超えて、「男女平等」を達成するために、運動を展開していた。現代では風化されつつある女性教員たちの足跡をたどりながら、現代にもつながるワークライフバランスの課題を捉えることを試みた。

◆データ
書 名 戦後女性教員史――日教組婦人部の労働権確立運動と産休・育休の制度化過程
著者名 跡部千慧
出版社 六花出版
発行日 2020年1月
定 価 4800円+税