岩波書店から発行されている月刊誌『世界』をご存じでしょうか。  
 知っているという方も、ジェンダー問題には関係ないカタい雑誌、と思われているかもしれません。  
 それはそう。1946年の創刊以降、丸山真男、桑原武夫、大塚久雄、大内兵衛各氏など、圧倒的に男性執筆者で占められていたし、読者もそうだったのだから。

 しかし時代は、ジェンダー的観点抜きの「民主主義」の標榜はありえないというところまで歩み至っています。執筆者も誌面構成もかなり変化してきているのに、男性中心メディアのイメージが残っているとすればもったいない。

 ということで『世界』2021年2月号から、若干ご紹介させていただきます!

 子どもを産む/産まないもそれぞれの意思次第。ただ、第三者からの精子・卵子提供や代理懐胎での出産はどう考える?
 不妊治療政策に熱心な菅偉義政権最初の国会で、2020年末、十分な議論もなく通った「生殖補助医療の親子関連法」について、柘植あづみさんに解説をいただいています。
 「子の出自を知る権利」に言及がないという問題点は報じられましたが、それは多々ある問題の一つ。先行する現実、日本でのここ20年の議論(日本学術会議提言もあり)、そして今回の急な法案成立の背景などを説明いただきました。4頁の短い解説記事ですが、コンパクトに状況がわかります。
 
 他に、書評として『ケアするのは誰か?』(ジョアン・C・トロント、岡野八代訳・著)。
 牟田和恵さんに紹介いただきました。

 基地闘争を闘った沖縄の阿波根昌鴻さんの特集も、新たな発見に満ちています。
 伊江島の「反戦平和資料館」で阿波根さんと共に活動してきた謝花悦子さんは、初めてご自身の人生をまとまった形で話をしてくださいました。
 戦中、まだ3歳のとき骨膜性カリエスで両足の自由を失うのですが、それは医者が軍隊にとられており適切な治療が受けられなかったため。沖縄戦では祖父や母などに抱えられながら県北部の山中を逃げ延びます。寝たきりだった謝花さんを支えたのも阿波根さんでした。
 阿波根さんは基地闘争を闘い「沖縄のガンジー」と呼ばれることもありますが、それだけではない側面を感じていただけると思います。
 
〈インタビュー〉
平和とは人間の生命を尊ぶこと――阿波根昌鴻さんと私  謝花悦子(わびあいの里理事長)

〈人間への眼差し〉
その時、伊江島に一台のカメラがあった  張ヶ谷弘司(写真家)

〈資料調査から〉
常識をゆさぶる資料群――阿波根昌鴻とたたかいの記録  鳥山淳(琉球大学)

〈島ぐるみ闘争へ〉
記録の交差から始まる沖縄――阿波根昌鴻と瀬長亀次郎の日記から  新城郁夫(琉球大学)

〈暗闇の中の灯り〉
ガラクタの山を証すること  榎本空(ノースカロライナ大学チャペルヒル校博士課程)

 米軍による土地強制収容の1955、6年当時、自らカメラを持ち、米軍の非道の数々を記録し、日記をつけ、演習で落とした爆弾やパラシュートの数々を保存した行動。それらをさまざまな角度から論じます。
 最後の榎本空さんのものは、命どぅ宝とブラック・ライヴズ・マターが同じ地平で切り結ぶ素晴らしい論考です。

 他の論考も紹介したいですが、このあたりで。
 情報共有がお互いのエンパワーメントになることを願いつつ。
                           おおやま・みさこ(岩波書店『世界』編集部)

*内容の詳細は以下からご覧ください。 
https://www.iwanami.co.jp/book/b556064.html

『世界』2021年2月号(Vo.941)

岩波書店( 2021/01/08 )