
打ち合わせ場所で初めてお会いした著者の義江明子先生が、自ら古代パートを担当され、昨年大好評を博し、社会現象にまでなった国立歴史民俗博物館の「性差の日本史」展について、「たくさんの女性たちや、男性たちまでもが見に来てくれて、時代は変わったと思った」と感慨深そうにおっしゃっていたことが今も印象に残っています。
皇位の継承については、いま様々な立場の論者によって議論がなされています。しかし、そもそも天皇は、いつから今のような形で決めているのか? それは本当に「普遍」的なものなのか? 議論の前提をきちんと知りたいという人は少なくないのではないでしょうか。本書は古代女帝研究の第一人者が、古代王権論の流れを一望し、日本の女帝像、ひいては「男系の万世一系」という天皇のイメージを書き換えようと試みたものです。
天皇は最初から男系男子が継承するものだったわけではありません。古代には女帝が普遍的に存在した時代があり、その条件は、男系と女系の両方を含む、「双系」的な親族結合と、さらに男女の長老がリーダーとなる「長老原理」の二つでした。
さらに古代史研究において、女帝は、次の男皇が皇位に就くまでの単なる「中つぎ」に過ぎなかったという説が長い間支持され、1990年代末に性差を前提としない王権研究の必要性が提起されるまで、それに疑問が持たれることはありませんでした。本書はそうした考え方に真っ向から異を唱えるものです。時代ごとに支持される考え方や学説があり、それが検証されて更新されていく、社会はこのようにして前に進んでいくのだと感じます。
本書は、自らの意見を性急に述べたり、声高に何かを攻撃するようなものではありません。史料と一つ一つ真摯に向き合いながら、歴史への思い込みを取り除くように、丁寧に論証をしていく――。そうしたプロセスの中から、歴史の真実の姿が見えてくるスリルに満ちた体験とともに、本書が、今日の社会を考え、新鮮な目で見つめ直すための材料となることを願っています。
(筑摩書房ちくま新書編集部/山本拓)
◆著者
義江明子(よしえ・あきこ):1948年生まれ。1971年、東京教育大学文学部史学科卒業。1979年、東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。帝京大学名誉教授。文学博士。専門は日本古代史。
著書に『つくられた卑弥呼』(ちくま学芸文庫)、『古代女性史への招待』(吉川弘文館)、『日本古代女帝論』(塙書房、角川源義賞)、『推古天皇』(ミネルヴァ書房)など多数。
◆書誌データ
書 名:『女帝の古代王権史』
著者名:義江明子
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
刊行年:2021/03/10
定 価:840円+税
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