
ちょうど1年前、専門家と安倍首相はコロナウイルス感染拡大は瀬戸際だ、正念場だ、この3月で山場を迎えると、言い続けました。判断する知恵も能力もないわたしは、ピークを過ぎるのを待ちに待ちましたが、結局その後1年間、ずっとコロナ漬けの日々を過ごすことを余儀なくされています。
去年の4月、このコラムでわたしは書きました。「やはり、女性と子どもが不幸になっています」「大地震や台風のような災害のとき、避難所でセクハラを受けたのも、授乳スペースがなくて困ったのも、子どもがうるさいと非難されたのも女性でした。何かことが起きると、まず、女性や子どもにしわ寄せがくるって不公平ではないですか。ことが起きたら、社会全体で苦しみや困難を分かち合うのが公平な社会ではないですか。女性と子どもがまっさきに不幸せになるというのは、これはもうコロナの問題ではなくて政治の問題なのです」と。
そしていま、コロナで仕事を失った、生活費もない、配偶者の在宅勤務でDVをうけ家にいられない、精神をやんでいる、そういった女性がますます増えてきています。
この3月13日と14日、そうした女性のために、女性たちが相談会を開きました。わたしは去年のコラムで書いたことを言いっ放しにしないために、この会に参加しました。この2日間とその前の2月からのオンライン準備会で、たくさんのことを知り学びました。今回はその報告です。
委員の準備の打ち合わせは、すべてオンラインで行われていました。わたしは2月から参加したのですが、中心となるメンバーは、年末に行われた「年越し支援・コロナ被害相談村」で、困窮する人たちの相談にのり、食料品の支援などをしてきたみなさんで、実にてきぱきと要領よく準備は進められていきました。年越し村では300人以上が相談に訪れ、その中に60人以上もの女性がいたけれど、男性が多い会では相談しにくい人もいた、女性のための女性による相談会がどうしても必要だ、というのが出発点だったのです。
相談にのる専門家の手配、困窮する人への支援の物資の調達、会場の設営、女性だけで行うための嫌がらせを想定した警備や、相談者のプライバシーを守るための会場の配置、性的マイノリティーの人への配慮、興味本位で来るかもしれないメディアへの対策、この会の周知の方法など、さまざまなことを想定して、準備は行われました。
当日、3月13日はあいにくのひどい雨降りでした。朝9時、トラックで支援の物資が次々に運び込まれました。生理用品などの日用必需品、衣類、子どもの絵本、野菜、くだもの、花栽培農家から送られた生花などなど、それらが雨に濡れないように設営しつつあるテント内に収容されました。テントは、本部、法律相談、健康相談、仕事の相談、物資を扱うマルシェ用などが円を描くように配置され、その中にはカフェ用のテントが張られました。特に相談ごとがなくても、おしゃべりだけにでも来てください、ひごろの重荷をおろしていってください、という趣旨のカフェでした。大慌てで準備する間に、もう相談者が来られたという連絡が入りました。雨の中、開始の10時を待ちかねて訪ねてきた方がもういたのです。
こうしてあたふたと、いつの間にか相談会は始まっていました。相談は弁護士、カウンセラー、看護師など、その道の専門家がそれぞれ対応しています。わたしはもっぱらカフェでお茶を入れたり、最初の相談票に沿って、どういう困りごとで来られたかを聞いて、専門家につなぐ役をしていました。仕事を失ってネットカフェで寝泊まりしている、離婚の相談に来た、お金がなくて家賃が払えないなど、どなたも本当に困っている女性ばかりでした。
相談をすませた方は、マルシェで野菜や果物、お米など、必要なものを袋にいっぱい詰めて持ち帰られました。
会場の入り口で受け付けをしていた担当者から、後で聞いた話です。さんざんためらった末、勇気を振り絞って訪ねて来たといったようすで最初は緊張して硬い表情で入ってこられたが、帰る時は明るい表情で、来てよかったと言って帰られた方もいた、ということです。また、知人の女性のことで相談したいと言ってきた男性もいたそうです。
相談を受けた人の報告です。相談の結果、区役所に同行して生活保護が受けられることになり、区の準備したビジネスホテルに入った女性は、夢のようですと喜んでいたそうです。話を聞いてもらって気持ちが楽になった、もう少し自分でやってみますと言って帰った人もいたそうです。なにしろ2日間で、延べ122件もの相談があったのです。
こうした困っている女性たちに、女性たちがまず寝る所と食べる物の支援をする、少しでも心の負担をへらす手伝いをする、そのために必要な食料品や日用品を全国から集める、労働組合をはじめいろいろな組織や個人の皆さんから寄付を集める、そういったことが土台にあって相談会は開かれました。これらすべてを遂行した女性たちのパワーのすごさに、初参加のわたしは、ただただ目を見張り感服していました。
翌日は晴れましたが、冷たい風が強くてテントは吹き飛ばされそうでした。不順な天候の中、こんなに多くの困っている女性がきました。その背景にはもっともっと多くの女性がいることは明らかです。埼玉や千葉からは、来たくても交通費がなくて来られなかった女性もいたと後で聞きました。こんな会のあることも知らない人は、もっともっと多いでしょう。
女性の貧困について、昨今メディアでも取り上げられて、少しは理解していたつもりでしたが、この2日間、直接目の前でそうした人に接して、やはりショックでした。同じ東京で同じ空気を吸いながら、今晩寝るところもない人がいる、これこそ、政治の貧困ではないですか。見るに見かねた女性たちが力を出し合って、困っている女性を少し支援したところで、長期的に見てその人たちの安定した生活を保障できるのでしょうか。しかも、ここに来た人たちは、たまたまこの会を知ったごくごく一部の人にすぎません。そう思うと絶望的にさえなります。
こういう会を開くことで救われ、楽になる人がいる、他にそれをする人がいないなら、できる人は何でもやった方がいい、とは思います。しかし根本的な解決は政治です。
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
わたしたちは、こんな立派な憲法を持っています。国民が路頭に迷うことのない政治を行うのが、政治家の最低の任務でしょう。あらためてそう思った2日間でした。
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