
7月に予定されている、東京オリンピック・パラリンピック(「五輪」と略します)の大会は、もうなんと言っても無理です。無事に開ける可能性が全くなくなっています。そして、わくわくと平和の祭典を待ち望んでいる人もどこにも見当たりません。組織委員会と東京都は今こそ中止を決断し、世界に発信すべきです。
「東京オリンピック・パラリンピック大会は中止します」と。
開催が無理な理由を思いつくままに挙げてみます。
1.7月までに新型コロナウイルス感染が収束するとは思えません。残念ですが、菅さんの言い続けてきた「コロナに打ち勝ったあかし」を、7月に見ることはできないでしょう。
2.無観客で、選手と関係者だけにしても、万単位の人を諸外国から安全に招くことは無理でしょう。五輪大会は、毎回200カ国近い国の選手たちが集まります。現在のように1日3000人もの死者が出ている国もあり、ロックダウンを続けている国もある状況で、各国の選手たちがいつものときと同じように集まれるでしょうか。
3.幸いにして収束している国もありますが、その国の選手たちに、ウイルス感染のまん延中の日本にどうぞ来てくださいと言えるのでしょうか。ワクチンも7月までにいきわたるとは思えませんし。
4.選手向けプレーブックによると、選手の到着後2週間の隔離は免除するということです。それですぐ練習を始めたとしても、それ以後、選手村と競技会場とを専用の乗り物で行き来する、いわゆる「バブル」方式の滞在です。観客も声援もない競技場で、黙々と走ったり跳んだり泳いだりして、終わったらまた「バブル」にくるまれて宿舎に戻る、そして48時間以内に出国するのだそうです。そういった滞在を承知し納得した上で、選手たちは来日するのでしょうか。そうやって来日した選手や大会関係者が変異ウイルなど新しいウイルスをもちこむことを、完全に防げるのでしょうか。
5.選手たちの健康管理のために、医療従事者が1万人必要だそうです。まず、「大会組織委員会が日本看護協会に対し、大会期間中の医療スタッフとして看護師500人の確保を要請する文書を送った」(毎日新聞4月27日)そうです。その500人はどこから確保するのでしょうか。今だってもう、大阪や兵庫では看護師が不足しています。兵庫県では国に、140人の看護師を何とかしてほしいと要請しています。五輪に回せるだけ看護師が余っているいるとは思えません。
しかもこの500人、「大会期間中」と言っていますが、7月23日から8月8日のオリンピック17日間、8月24日から9月5日までのパラリンピック13日間、計30日間で500人確保するというのでしょうか。
他の記事もよく読んでみると、橋本会長がまだ五輪担当大臣だった2月に、「1日当たりの人員は医師が最大で約300人、看護師で約400人を見込んでいる」と国会で答弁しています。数字に弱いわたしの頭は大混乱です。4月27日の組織委員会の数字は大会期間中500人、橋本答弁では、大会期間中の1日当たり400人です。期間中と1日当たりとでは大違いです。400人として30日間ですから1万2千人、500人だったら1万5千人となります。こんなべらぼうな数字を満たせるほどの余っている看護師さんがどこにいるのですか。わたしは疑っています。本当は1日当たり500人、期間中では1万5千人を確保してほしいところだが、そう言うと、そんなに多くはこのコロナ禍から割くことは不可能と言われる、コロナ対策を軽視すると批判される、だから本当は、「期間中(の1日当たり)500人」を、わざと( )の部分をぼかして公表したのではないか、と。
東京医大の濱田教授は、東京五輪を開催するための必須条件として「医療資源の確保」を挙げています。
「医師や看護師らが新型コロナウイルスの感染者の治療や対応に当たり、ワクチン接種にも医療従事者が必要になる。国民の優先順位はこの二つにある。その上で五輪開催に医療資源を割けるかどうか。それが難しければ中止を選択するしかない。」(毎日新聞4月29日)
毎日400人から500人の看護師を五輪のために派遣できるとは思われません。現在、医療に従事している看護師さんとは別のプールがあるというのでしょうか。でもそんなプールがあるというなら、現在の逼迫状況というのはウソになります。医療が崩壊してしまうと大変だから、外出も人と会うのも控えて「自粛」しているわたしたちは、だまされていることになります。
6.医師も同じことです。毎日100人でも200人でも五輪に割ける医師がいるなら、ワクチン接種に自衛隊の医官を駆り出す必要はないでしょう。「逼迫した」医療状況はもっと緩和されるはずです。どこから、オリンピックのための医師が湧き出てくるのでしょうか。
7.いちばん五輪を決行してほしいと思っているのは選手たちだ、選手たちはこの大会のために、あらゆる力を注いできた、中止になるのは選手たちがかわいそうだ、という声があります。たしかにそうでしょう。この日のためにいろいろなことを犠牲にし、努力し、練習に励んできた選手たちです。その目標が消えてしまうのは本当に気の毒です。ですが、その選手たちの中にも、大勢の感染者や死者が出て国中が混乱・困惑している時に、何よりも五輪を優先すべきだとは言えまいと自制している人もいます。あるスポーツ担当の新聞記者は書いています。
「この1年、スポーツ界は「オリパラ成功のため」と突き進んできた。スポーツ庁は延期された東京大会の感染症対策として857億円を計上。スポーツ関連予算の2倍を上回る手厚い支援で大会開催を後押ししている。一方、五輪に全てをかけつつ、何が何でも開いてほしいと望む選手に私は接したことがない。」(朝日新聞4月27日夕刊)
大局的にとらえて、冷静に考えている選手も多いということでしょう。となると、選手かわいそう論は少し引っ込めてもよさそうです。
8. すっかり有名になった、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長も、「世界では感染症が非常に広がっている。感染や医療の情況を考え、国民に知らせるのが組織委、関係者の責任ではないか」(NHKニュース7、4月28日)と、五輪開催についての決断の時期だと語っていました。国内全体での死者が1万人を超え、東京都の感染者が925人出ているこの日の数値を前にして、さすがにこのままずるずる先送りはまずいと判断したのでしょう。
医療関係者として、五輪は無理だとの思いがTVニュースの画面にはにじみ出ていました。
五輪中止の判断を、先に延ばせば延ばすだけ、コロナ対策に集中できなくなり、不徹底になります。ますます収束は遅れます。いみじくも川柳はつぶやきます。
逼迫(ひっぱく)の医師看護師を削(そ)ぐ五輪 小島福節(朝日新聞 4月29日)
あの、二階さんも言いました。「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃ」(毎日新聞4月16日)と。
そうです。とても無理です。今こそ、スパッとやめる時です。
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