
新刊紹介
吉田裕編『戦争と軍隊の政治社会史』(大月書店、2021年7月)
平井和子
人々の「いのち」と生活の営みに大きな影を落とす戦争と軍隊、そして天皇制。兵士や地域民衆、また君主制のあり方という現代的課題から、日本近現代史のさらなる深化をめざして、日本の軍事史・政治史研究の第一人者である吉田裕氏の一橋大学退官(2020年)を機に、その教えを受けたゼミ生たちが研究成果を持ち寄って本書ができあがった。
本書の構成は以下。
序章 近代歴史学と私たちの課題 大串潤児
第一部 身体と記憶の兵士論
第1章 国府台陸軍病院における「公病」患者たち 中村江里
第2章 戦傷/戦病の差異に見る「傷痍軍人」 松田英里
第3章 日本兵たちの「慰安所」―回想録にみる現場 平井和子
第4章 新中国で戦犯となった日本人の加害認識 張 宏波
第二部 軍隊・戦争をめぐる政治文化の諸相
第5章 軍隊と紙芝居 大串潤児
第6章 南次郎総督と新体制 金 奉是
第7章 講和後の基地反対運動―長野県・有明における自衛隊演習化問題
松田圭祐
第8章 戦後地域社会の軍事化と自治体・基地労働者 森脇孝広
第9章 メディア言説における韓国の対日認識と歴史教科書問題 李 宣定
第三部 天皇制の政治社会史
第10章 東條秀樹内閣期における戦争指導と御前会議 森 茂樹
第11章 昭和戦時期の皇室財政 加藤祐介
第12章 国会開会式と天皇制―帝国憲法と日本国憲法の連続と断絶 瀬畑源
終章 戦後歴史学と軍事史研究 吉田裕
戦後日本の歴史学は、侵略戦争に対する反省から、旧日軍中心の軍事史から距離をとってきた。その中にあって、吉田裕氏は、一貫して一人ひとりの兵士の視点にたって戦争の意味を問い続けてきた(代表作として『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』中公新書、2017年)。また、軍事史研究も90年代から次第に変化をしており、2006年の『軍事史研究』(164号)では、初めて「戦争とジェンダー」という特集が組まれた。吉田ゼミの末席にて、わたしも、これまで被害者証言中心に進められてきた日本軍「慰安婦」研究に対して、「加害者」側の兵士一人ひとりにとっての「慰安所」の意味を問うてきた。拙稿「兵士たちの『慰安所』」は、前作「兵士と男性性―「慰安所」へ行った兵士/行かなかった兵士」(上野千鶴子他編『戦争と性暴力の比較史へ向けて』2018年、岩波書店)に続けて、前作では対象にできなかった1991年の金学順さんの名のり出以降の兵士の言説を取り上げ、「パラダイム転換」以降、兵士たちの認識に変化があったか/なかったかを追った。
本書は全体を見ると「女の本屋」というより「男の本屋」という感が強いかもしれない。しかし、第一部には、「身体と記憶の兵士論」に関する3論文が収められた。軍隊と性暴力戦争と男性性、戦争とトラウマに興味のある方はぜひ手に取って頂きたい。
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