近畿地方を中心に北海道、京都、奈良、滋賀、和歌山、香川など60軒の農村の宿泊施設を紹介する旅行サイト『gochi荘(ゴチソウ)』。https://gochisouoyado.com/
 岡田さんが提案するのは、農漁村の宿や1棟貸しに泊まり季節の食や景観や体験を楽しむ旅だ。これまでの農家民泊とはまったく違った視点で農家に光を当てた注目の活動。テーマは『おいしい食体験ができる宿』。
 1軒1軒を覗いてみると、宿の紹介から料理、体験まで丁寧に紹介されている。ビジュアルも美しく行ってみたいと思わせるつくりになっている。
 

岡田奈穂子さん


◆同じものがひとつもない。どれもが個性的
 『gochi荘』を作ったのは旅行会社・株式会社Table a Cloth 代表取締役・岡田奈穂子さん。
http://tableacloth.com/
 会社の創立は2018年。スタッフの松下裕美さんと2名の会社で、場所は兵庫県の自宅兼事務所にある。おもにヨーロッパを中心とした海外旅行のオーダーメイドからスタートした。手掛けた旅は200本以上。岡田さん自身、これまで40か国160都市を旅してきた。その彼女が次に始めたのが国内の田舎を満喫できる旅だった。

「海外旅行に行く人って結婚して子供ができた瞬間、時間もお金もかかるから、旅行に行けなくなる。元々(旅行会社Table a Cloth )のお客さんって、ハネムーンの方、もしくは子育てが終わったあとのカップル旅、女子旅が多かった。その間が抜けていた。子供ができても、どこに行けるのかなと。沖縄リゾート、ハワイというのが多いというのが実情だった。」

 旅を手近に楽しんでもらいたくて考えたのが国内の旅『gochi荘』。岡田さん自身、結婚して子供を持ったとき、子供連れでも気軽に“おいしい旅”を楽しめる場所が国内にあったらいいなということから始まった。大切にしているのは女性の視点で、女性が出かけたくなる旅を重視している。

 『gochi荘』のブログでは、岡田さんとパートナーの松下裕美さんが、現地に足を運んで1軒1軒訪ねた宿や宿主の紹介はもちろん、四季折々のそこでしか食べられない食、風景、近所の直売所、酒蔵、棚田、神社などなどの見どころが豊富な写真とともに紹介されている。泊まるだけではなく、地域全体を楽しめるようになっている。部屋の間取り、アメニティ、交通手段も詳細に紹介されている。多言語対応にもなっている。地方の農村や漁村など観光とは無縁と思われていた地域の宿泊と食を掘り起こし、これまでになかった旅を紹介する。これまであるようでなかったスタイル。宿の選定が突出している。まるでミシュランの大衆版といってもよいだろう。

お勧めの農家、北海道の多田農園(中央が岡田さん)

採れたて野菜のシンプル料理


「掲載宿は、地域の観光局・役場の観光課の方などにコンセプトをお話して、いくつか紹介して一緒に選んでもらっています。新しいことや情報発信に積極的でないお宿さんもあるので、そういうところは外していくこととなります。『gochi荘』のターゲットは子供がいる家族層。子供が泣いても走り回っても、お互いに迷惑にならないことが条件。そんな宿にたどりつくのにすごく時間がかかる。現地に行き、宿の方とお話して、体験ができるか、何を食べられるか取材して、それを持ち帰り、ホームページの画面と文章を作ってみる。そして宿の方にOKか判断してもらう。『gochi荘』に載せてもらいたいと思ってもらえるよう心を掴み、同じ方向を向いておもしろい提案ができるかが勝負です」


◆地方ならではの朝ご飯に注目
 実は農村の観光は国も推進している政策。過疎化や農業人口が激減し若者が流失するなか、農泊を促すことで地域に経済と活気を作ることが目的だ。しかし、これまで観光をまったく手掛けたことがない農家が農泊で観光をといってもノウハウもなく、対応が十分とは言えないケースがほとんどだった。そんななかで、岡田さんが選定基準のひとつにしているのが、移住・定住に熱心な市町村。
 多くの地方都市は人口減で、移住・定住に力を入れている。特に熱心で受け入れ体制をしっかりしているところはUIターンも多く、若い人が積極的にゲストハウスや古民家をリノベーションをして宿泊ができるようにするケースが少なくない。それらを岡田さんは、現地に行き、ひとつひとつ拾い上げていく。

1棟貸し『森の風土(丹波篠山)』

イノシシ肉のぼたん鍋 


「好きでないとできない(笑)。宿や地域の魅力・おもしろさを相手から引き出さないといけない。『新しいものなにかできますか』って訊くと、たいてい『ここはなにもあらへん』と言われる。『ここにいっぱい、いいものがあるじゃないですか。春夏秋には季節の野菜や果物があり、それはどうやって調理するんですか』って尋ねて、それを魅力的なプランに落としていく。例えば、鶏小屋で生みたて卵をとりに行き、棚田のお米で卵かけご飯。季節の野菜や地元の肉でのBBQ。漁村では宿主と漁港に行ってお魚を買って食べる魚料理とか。
 注目しているのは、その地方ならではの朝ご飯。地域性がすごくある。お味噌汁も地域で違う。実際、宿泊される方にアンケートをとってみると朝ご飯をかなり決め手としている。とくにお母さんにとって、朝ご飯をゆっくり食べるのは『非日常』。宿の朝ご飯を特に紹介したいです」

 築220年の古民家を使った京都府京北の「ほろろん」

朝とれ卵のタマゴかけご飯


 現地を訪ねてオリジナルの体験プランを作り出す。90%が独自に生まれた体験メニューだ。ちなみに『gochi荘』を経由での手数料は12%。ただしクレジット決済になっているために約3.5%が引かれる。今後は『gochi荘』を積極的にプロモーションし、宿と地域に還元できる形を創ることが目標だ。岡田さんは将来、自分でも宿を作る夢をもっている。

「完結しない宿。拠点となる宿。地域の漁師さん、牧場とか、全部の繋がりがあって、そこのものが食べられる。もしくは、そこへ行くと、見学や体験もアテンドしてもらえる。地域の案内所のような宿。地域の方と一緒に作る宿がやりたいんです」

◆個人に沿った旅を作りたいと思ったのはイタリアツアーからだった
 岡田さんは奈良県出身。家族は父と母と弟の4人。お父さんは小児科医。最初の海外は、2歳のときにオースラリアの旅。よく旅行には連れて行ってもらった。自分が選んだ初めての旅は大学のときのお母さんとのイタリアの旅。ローマからフェレンツェ、ベネチア、ナポリ、カプリ島を巡るハイライトのツアーだった。ところが現地に行くと食事が中華であったり、イタリア料理でもメニューが決まっていたり、ホテルが郊外で、外に気軽に行けるところがないなど、自分の思いと異なる旅だった。そこからツアーではなく、自分で選ぶ旅を始めることとなる。

「ツアーは、これっきりにしようと。それ以来、自分で飛行機も宿も取っていくようになった。大学のときに半年ほど語学留学していた。ロンドンから1時間いったところにブライトンという町があるんです。イギリスのリゾート地のようなところですが、そこの語学学校に6か月間行っていた。子供のころから英語が好きで日常会話程度は喋れた。ホームステイでなくて寮に住んでみたくて、そしたら200人いる寮生で日本人は私一人しかいなくて、あとはヨーロッパの子たちだったんです。そのとき友達がたくさんできた。その友達のところに会いにいったり、友達が町を紹介してくれていたりしていたので、そんなに現地で困ることはなくて、最初は、飛行機とホテルだけ予約していくのだったのが、そこにレストランを予約できるようになったり、アクティビティを調べて予約できるようになったり、いろんな要素を足していけると、なんとなくツアーを作れるようになっていた」

学生時代のメキシコの友人と現地で再会

留学時代のスペインの友達と現地で再会


◆ボランティアで始めた友人のためのヨーロッパオーダーメイドの旅 
 岡田さんは大学を出て、輸入雑貨を扱う神戸の通販大手㈱フェリシモで商品の企画・調達をする仕事についた。海外からの輸入雑貨を扱っていた。インテリア雑貨、服飾雑貨、鞄、エプロン、フランスのボタン、イタリアのフェレンツエの伝統的な紙で作っているボックス。企画することから始まり、どんなものを輸入するかを決めて、発注、輸入、商品化をするというもの。

「仕事は日本なんですが、でも海外はよく行っていました。自分で調整さえすれば休みがとりやすい会社だったので、お休みとか有給休暇は全部海外旅行に費やしていた。仕事で休暇をもらえたわけではないですけど、現地で、商談をしたり、プライベートで勝手にやっていました。現地に行きたいし、商品を作っている人に会ってみたかった。カンボジア、ベトナム、アジア圏もありました。展示会ではドイツやイギリスにもいっていました。展示会は会社から行かせていただいた。会社勤めは6年間。この間にたくさん海外に旅させてもらいました。宿はローカルのビジネスホテル、小さな家族経営のホテル、B&B(Bed & Breakfast=朝食付きの簡易な宿)も使っていました」

行きつけのオーストリア・ウィーンのワインショップのオーナーと

パリにて

 
そんな彼女がボランティアと趣味で始めたのが、友人のヨーロッパの旅をプライベートにオーダーメイドで作り上げる旅だった。個人で自由な旅をしていることを友人や仲間が聞きつけ、リクエストが来るようになったのだ。

「2015年ころは、まだまだツアー旅行が主流で、SNSもインスタグラムもあまりなくて、個人旅行でヨーロッパ旅行に行くというのもちょっとハードルが高かった。旅をしたいから作ってくれないかと言われるようになった。今、やっていることとぜんぜん変わらないんですけど、友達のホテルをとってあげて、交通機関を示してあげて、チケットをとってあげて全部ボランティアでやっていた。そのかわりお土産を買ってきてもらう。お店も指定して、ここのワインとチーズを買ってきてほしいとか頼んでいた」

イタリア・トスカーナ州のアグリツーリズモ

手打ちパスタ


 友人へのプライベートなオーダーメイド旅は、最初は2泊3日の観光旅行を頼まれただけだったのが、新婚旅行になり、10日間のカリブ海旅行になり、クルーズ旅行になり、子供さんの留学になり、どんどん話が大きくなってきて、次々、依頼が来るようになった。その数、年間20本くらいにふくらんだ。

「やれるんでやるんですけど、なんの責任もとれないじゃないですか。資格もないし。向こうでなにかあったら誰が守るんだというのがあった。仕事を圧迫する可能性もあった。もう完全に辞めるのか、やるのか決めないといけないと思ったんです。仕事とは完全に分けてはいたけど、基本海外なので、やりとりが夜だったり朝だったりで夜寝る時間がなくなってきた。フェリシモの仕事はとてもやりがいがあった。会員さんが何十万人もいるような会社だったので、ひとつなにかアクションすると会員さんに響くという仕事でもあったんです。でも大きな企業なので私でなくてもいいかもしれないと思ってはいた。一方で、新婚旅行で、これだけみんなが頼んでくれるというのは、やはり世の中にはなくて、私じゃないと新婚旅行は叶わなかったかもしれないと思ったときに、少数でいいから自分を必要としてくれる人に対して、なにかこれから仕事をしていきたいと思って、とりあえず旅行業を勉強してみようと思ったんです」 (次回「パート2」に続きます)

Table a Clothが手掛ける海外へのオーダーメイドの旅の案内。1日ごとのポケットに、宿、食事、交通手 段、見どころなど詳細な紹介と案内がある。



株式会社Table a Cloth  http://tableacloth.com/
『gochi荘(ゴチソウ)』  https://gochisouoyado.com/
Instagram: https://www.instagram.com/tableacloth_travel/?hl=ja
Facebook: https://www.facebook.com/no.tableacloth
Note: Table a Cloth Travel|note
Blog: http://buonovoyage.hatenablog.com/