2011.07.13 Wed
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この度、wan でもすでに、著者紹介にて紹介された『連帯の哲学 I フランス社会連帯主義』が渋沢クローデル賞を受賞されました。重田園江さんは、日本における貴重なミシェル・フーコー研究である、『フーコーの穴』をはじめ、「社会」という考え方を生みだす歴史的な背景について、統計学や保険制度に注目しながら、これまでも多くの著作を発表されてきました。
とくに近年、「支え合い」や「つながり」といった、日本における主流の政治思想や政治学では取り上げにくかった、しかしながら、社会に生きるわたしたちの多くが、必要と感じてきたものを、歴史的な観点から考察する研究に従事されています。そうした重田さんの研究は、「日本の絆」や「日本人らしさ」といった、ぼんやりとした「伝統」に訴え、政治的責任の在り処については、有耶無耶なまま、日本人(だけ)の助け合いに訴えようとする、震災後の政治的な思惑をしっかりと反省することの大切さを、わたしたちに伝えてくれています。
そこで、今回特別に、シリーズ「wan的脱原発」のために2011年6月、東京日仏会館で行われた受賞式の際のスピーチをご寄稿していただきました。 (岡野八代)
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本日はこのような賞をいただくことができて、本当にうれしく思います。
この貴重な賞の授与を30年近くもつづけてきた日仏会館の方々、また今回審査に関わって下さった皆さまに感謝します。そしてこの本出版に最初から最後までつきあって下さった勁草書房の担当編集者、執筆のきっかけを与えてくれた雑誌『現代思想』編集部、自由な職場環境を与えつづけてくれる明治大学政治経済学部に、心から感謝します。
また急に不機嫌になったり考え込んだり、忙しそうにしてまるで相手にしなくなる私をあきれつつも放置してくれた夫と子どもたち、いつか私が本のあとがきに両親への感謝の言葉を書くことを期待しながらいつも裏切られてがっかりしている母、そしてすべてを認め受け入れ、嬉しいときは一緒に喜んでくれる父にありがとうと言いたいです。
このままつづけるとアカデミー賞の授賞式になってしまうので、このへんでやめておきます。
『連帯の哲学』は構想から3年かけた書き下ろしですが、前々から書きたいと思っていたテーマです。ただ、書くまでに費やす労力がちらちら浮かんでどうしても前に進みませんでした。それを進めるきっかけになったのは、2005年から2年間の在外研究で滞在したイギリスで、地方都市に押し寄せる「グローバル市場化」の波に驚き、日本もまた同じ轍を踏むことをただ黙って見ている訳にはいかないという思いでした。
この本のテーマは、見ず知らずの人たちが、親友になることも知己になることもないままに、それでも何らかのつながりを持つということ、そのつながりを支えに多くの人が生きているということです。これらは現代では当たり前のことですが、その当たり前のことがどのようにして、何をきっかけに生じるのか、そしてどのような弱点があるからつながりが壊れていってしまうのか、今あるつながりがどうねじまがって、ゆがんでいるのか、あるいはどうすればもう少しましなつながりを作れるのかについて考えたいと思いました。
はじめてみてから気づいたのですが、こうしたテーマは身近なようで意外に扱いが難しく、そのためこれまであまりきちんと問われてきたことがなかったものです。そのうえ、「人と人とのつながり」といったテーマを取り上げると、すぐに著者の希望的観測を交えたスピリチュアルな話になってしまいがちです。
この本は、こういう微妙なテーマの追求を「研究」として成立させるために、歴史、それも日本からはるか遠い19世紀末のフランス史に題材を取りました。逆に言うと、日本では悲しいぐらい注目されない19世紀末フランスでかつて熱く語られた「社会主義とも市場主義とも違う未来構想」に、新しい光を当てたいと思いました。
そして、一見かけ離れた時代と場所を辿ってゆくことで、現在の日本で起きているとんでもないことや悲惨な事柄について、何かこのままではいけないという思いを読者に喚起できるような、そういう本であってほしいと願いました。
その願いがどのぐらい果たされたか、本の中に込めた想いが読者にどれほど届いたかは分かりません。でも、大震災という、戦争が終わってから誰も経験したことがないような大変な災難に見舞われた日本で、「人はなぜつながるのか」「どんなつながり方があるのか」を、家族のように親密でもなく会社のように組織だったものでもない場面をあえて選んで問いかけ、また、良いことではなく悪いこと、災害・病気・死などの災難を通じて人がどのようにつながってきたかを、歴史を通じて問いかける本には、必ずニーズがあり反響があると思っています。
今回の受賞をきっかけにこの本が私一人ではとても力の及ばないところで注目され、本を手に取ってくれる人が増えることは確実です。このことに感謝すると同時に、届けたいと思うもっと多くの人に、この本が手に取られ、読まれ、彼らへの励ましになることを期待しています。本日はありがとうございました。(重田園江)
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