2011.10.23 Sun
9月30日、大阪ドーンセンターで行われたフォーラムに参加しました。このフォーラムは、昨年実施された竹中セミナーの発展版。「今」の労働問題や社会政策を取りあげます。
今回は、福井県立大学の北明美さんによる「「子ども手当」本当に無くしていいのか」。
「子ども手当」は廃止され、自公政権時代から引き継いだ「児童手当」が復活することが決まった今、すっかり悪者にされてしまった子ども手当について考えてみようというテーマです。
最初に、「子ども手当」とこれまでの日本の「児童手当」は何が違うのか、という説明から。
子ども手当も児童手当も法改正があり、微妙な差はあるのですが、単純にいえば、給付に所得制限などがあるのが「児童手当」、制限がないのが「子ども手当」といえます。
子ども手当は、所得制限がないところに大きな意義があったのですが、三党合意によって来年6月分(来年10月支給分)から、所得制限を導入する計画が進められています。
今回は、この“所得制限”が大きなポイントとなります。
では、所得制限の何が問題なのか。
北さんの説明によると、所得制限をし、高所得者への給付がなくなったからといって、低所得者への給付が手厚くなるわけではなく、これまでの政策から見ても、ひとり親家庭や保育制度の充実に浮いた額が回るとは考えにくいこと。
給付は、大まかに言えば“昨年度”の収入で計算されるため、経済事情が変わった場合の「今」の貧困に対応できないこと。
また、所得制限は家庭の経済を支える世帯主の所得を審査して、世帯主に給付されるしくみと結びついているため、父親より所得が低い母親は受給資格者になれない、専業主婦のいる家庭のほうが所得限度額が有利に設定される。
かといって、両親二人の所得を合算するしくみに変えれば、女性の就労に対して阻害的な影響を与えるといったジェンダーの問題がある、ということです。
こうした所得制限の導入と別に、かつての「(旧)児童手当」から子ども手当へと制度が変わった意義を、北さんは「民主党の子ども手当を100%評価するわけではないが」と留保をつけつつ、次のように説明されました。
実は、自民党政権時の「(旧)児童手当」と年少扶養控除の組み合わせは、高所得が得をする、低所得者には不利な制度でした。
税率がより高い高所得者のほうが控除による税の軽減額が多くなる一方、児童手当の額や期間のレベルは低くおさえられがちなので、低所得者の不利は補えません。
「所得制限があって公平だった」と言われる「(旧)児童手当」のほうが逆進的な制度だったのです(自民党時代にどんどん進んでいった累進課税制度の緩和が、高所得者に甘く、低所得者に厳しいものであることと似ていませんか?)。
これに対し、「子ども手当」は、額も期間も、引き上げられた手当がどのような所得の家庭であっても一律に支給されます。
しかし、年少扶養控除の廃止により、高所得者ほど税負担が高まるため、差し引きした結果は低所得家庭のほうが高所得者家庭より有利、という結果になるのです。
もう一点、子ども手当は、「社会で子育てする」ことを打ち出した点が、これまでの児童手当と大きく異なります。
「社会で子育て」は、少子化の問題と結びつけられることも多いのですが、経済格差が大きくなった社会の中での子育てという面からも、しっかり見つめる必要があると私は感じました。
社会の中での子育ては、子育てを家庭に閉じ込め、行政はそのサポートをする、という、これまでの政策と大きく異なり、社会的弱者に対して公正な社会を築くことと関連しています。
この、「社会で子育てする」という理念にこそ真の意義があるからこそ、所得制限は子ども手当となじまないわけです。
子ども手当は財源が問題にされ、東日本大震災の復興財源と絡められます。
しかし、今後実施されようとしている法人税率の引き下げによる減税額は2兆円で、この金額は「子ども手当」の削減でねん出される予算額とほぼ同額です。
この額は復興財源ではなく、企業に対する減税の穴埋めに使われるとみることもできます。
官僚は自分たちの裁量の余地がないため、子ども手当をつぶそうとしたという指摘もあるこの問題。
子ども手当を「子どもベーシックインカム」と考えたとき、非常に新しい社会政策の芽が生まれていたにもかかわらず、早々に摘み取られてしまったことを、私たちは今こそ考えなければならないのではないでしょうか。
参考:2011/9/9号 『週刊ポスト』「「子ども手当」本当に無くしていいのか」
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【お知らせ】
フォーラム:労働・社会政策・ジェンダーでは、子ども手当について、もう一度セミナーを開催し、労働政策との関係などについて検討する予定です。
12月8日(木)18:30〜 ドーンセンター大会議室
詳細は近日中にイベント情報や活動レポートでご案内します。
カテゴリー:男女共同参画 / セミナー「竹中恵美子に学ぶ」
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