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中国の女子大学生の「男性トイレ占拠」アクションと日本のメディア 遠山日出也
2012.04.18 Wed
今年2~3月、中国各地で、女子大学生たちが男性トイレを一時的に占拠して、女性トイレに行列を作って待っている女性に使ってもらうというアクションをした。その目的は、女性トイレの便器が不足していることを政府や社会にアピールすることだった。彼女たちは「女性への思いやりはトイレから」と書いたプレートを高く掲げ、道行く人々にも「男の同胞への手紙」と題するチラシを配って、男女の便器の数の不平等さや立法による改善が必要であることを訴えた(詳しくは拙ブログの記事「女子大学生の『男子トイレを占拠する』アクション」参照)。
多くの欧米のマスコミ(BBC、AFP、ニューヨークタイムズなど)がこの運動を報道した。しかし、日本では、欧米での報道が続いた後になって、『毎日』がコラムで取り上げただけだった(隅俊之「上海交差点:広州トイレ占拠事件」3月5日東京本社発行夕刊)。
ただし、日本でも、インターネットでは、海外の記事を翻訳・紹介する形で、かなりのメディアがこのアクションを報じた。けれど、ヤフーコメントや2ちゃんねるは、それに対して、「痛い 痛すぎる」「中国人の頭は、いっちゃってんな」「人体の機能面に対して不平等を叫ぶ意味がわからない」といった書き込みで溢れた。もちろんこれはネットユーザーの問題だが、ネット報道自体にも問題があった。
まず、ネット報道では、「男性トイレ占拠」といっても、男性に何分か待ってもらうだけあることや、チラシを配って男性にも理解を得る努力をしたことが書かれていない。 また、日本のネットメディア「レコードチャイナ」が広州での女子大学生のアクションを伝えた記事は、それが典拠としたBBC中国語版には書いてあった、アクション中におこなった調査では「大多数の人が私たちを支持した」という女子大学生の発言や「研究によると、男女の用便の時間は約1:2.5であるのに、[便器の]比率が不適当である」という文をカットしている。また、北京でのアクションを伝えた記事には、「街頭では活動に関するアンケートがおこなわれたが、反対意見がほとんどだった」とあるが、その典拠であるチャイナフォトプレスには、それを示す写真はなく、むしろ、「現在の男女のトイレの便器の比率は合理的か?」という質問に対して、「不合理」という答えがほとんどであるシール投票の写真が掲載されている(フェミに好意的でないネット上の匿名投票さえ、「不合理」という意見が過半数で、アクション自体への支持も3割程度あった)。
また、今回のアクションは、1996年5月4日に台湾の女子大学生たちが駅の男性トイレを占拠するアクションをして、法規を変えるのにも成功したこと(「五四新女性トイレ運動」)を参考にしているが、その点を述べた報道は見当たらない。ウォール・ストリート・ジャーナルだけが、彼女たちが「香港や台湾から学んだ」ことには触れて、台湾・香港・アメリカでは「女性トイレをより広い面積にするように定めた、いわゆる『ポッティ・パリティ(Potty Parity)』法を施行している」ことも書いているが、その日本語版は、「『ポッティ・パリティ』と呼ばれる男女平等トイレを広く設置することを義務づける条例」という完全な誤訳をしており、お粗末だ。
日本のネットメディアは、ふだんは性差別の問題をほとんど扱っておらず、今回のアクションも、物珍しいから報道しただけのようだ。しかし、日本でも1980年代末、堺市の女子小学生や京都の女性グループ、東京の研究者ら、および彼女(彼)らが共同で結成した「女と男のトイレ研究会」が公共トイレの便器数の男女差を調査して、その性差別性(女性はトイレに時間がかかるのに、トイレの面積が同じでも、女性用便器の方が少ない)を批判し(「女のトイレはなぜ混むか」島田裕巳『私というメディア』パーソナルメディア1989年)、1994年には所沢市議会で中嶋里美議員が公共施設の女性トイレ拡大を求めるなど、さまざまな努力がなされてきた。現在でも問題は残っているし、一部改善されたのも、女性たちが声を上げたからだろう。こうしたことが念頭にあれば、報道のし方も違ってきたはずだ。
海外事情についても、ジェンダー平等の視点からメディアをチェックしたり、自らの手で知らせたりすることが必要だと強く感じる。
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