
なぜ日本は、豊かな先進国のはずなのに、ほかの先進国と呼ばれている国と違って男女格差が大きく、性別にもとづいて周りからとやかくいわれる、生きづらい国なのだろう。
本書は、今から100年から80年くらい前の、会社や公官庁、学校、病院、百貨店などで働く女性――当時彼女らは「職業婦人」と呼ばれました――が増え始めた時代に作られていった女性の働き方に関する仕組みや働く女性に対する世の中の人たちの考え方を明らかにすることによって、この問いにアプローチしました。本書で明らかにしたその仕組みとは、「女性が社会に出て働くのは結婚して主婦になるまで(子どもを産むまで)の一時的な腰掛けであり、家計補助のためである。だから女性には責任の伴わない補助的な仕事をさせて給料も地位も低いまま」という仕組みであり、その考え方とは、「女性はよい結婚をしてよい妻・よい母になるための準備として働いている」という考え方です。この仕組みや考え方が広まっていったことで、女性の職場進出のハードルは下がり、戦前期の日本では学卒後就職する女性は都市部を中心に増加していきました。一方で、それは女性の職業アスピレーションを冷却させる機能を果たし、男性と同じ場における社会・経済的地位達成という職業的選抜システムから女性を排除するとともに、「社会的自立」という働くことの意味をも女性たちから遮蔽し、安価で柔軟で補助的な労働力として女性たちを労働市場の周辺に位置づけ、社会における男性支配/女性被支配関係を維持し存続させることにもなりました。
少子高齢・人口減少社会が進行する現代日本社会においては、性別役割分業の歪みと綻びが露呈しており、女性の働き方も点検と整備が必要です。戦前期に作り出され広まっていった考え方が現在も依然として女性の働き方を意味づける考え方として影響力を残し続けているとしたら、それとは違った考え方を社会に広めていく実践がより活発に行われるべきであると考えます。私は、「就労の意味づけに性別による違いはなく、生活するお金を稼ぐためである」や「働くことによって自分や他者を大切にできる力が得られる」という考え方が社会により共有されるように働きかけを行っていきたいと思います。
本書で得られた知見が、現代日本社会において多くの女性が置かれがちな生きづらい状況の源流を共有し、それを再考するなかで今後の生き方を展望し、状況を変えていくための声を持つ契機のひとつとなれば幸いです。(はま・たかこ)
【目次】
序章 職業婦人研究の課題と方法
第Ⅰ部 戦前期社会統計調査における職業婦人の状況
第一章 国勢調査からみる「職業婦人」
第二章 東京の職業婦人調査における「職業婦人」
第三章 学歴と「職業婦人」
第Ⅱ部 職業婦人イメージの形成と変容
第四章 婦人雑誌のなかの「職業婦人」
第五章 『婦人公論』における職業婦人イメージの形成と変容
――「教養女性」と「職業婦人」の出会い
第六章 『主婦之友』における職業婦人イメージの形成と変容
――「職業婦人」と「主婦」の接続
第七章 『婦人倶楽部』における職業婦人イメージの形成と変容
――「名流婦人」と「職業婦人」の分離
第八章 『読売新聞』「悩める女性へ」における「職業婦人」の悩み
終 章 「職業婦人」と「良妻賢母」
【書誌データ】
書名 :職業婦人の歴史社会学
著者 :濱 貴子
頁数 :320頁
刊行日:2022/2/28
出版社:晃洋書房
定価 :7,370円(税込)
慰安婦
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