
「聖書と女性たち」(論創社 2021)は、共立女子大学と大妻女子大学での30年間の教育と研究の成果の中で、私の研究のキーワード聖書・キリスト教・女性たち・比較文学比較文化のいずれかに関連しているものを、この題名で一冊の本にしたものです。(漱石研究は、分量が多いので、別に刊行)
二部構成で、第一部はルカ福音書「放蕩息子」のたとえ話から、聖書の福音の核心を読み取り、日本で半世紀、宣教に尽くされた三人のカトリック司祭の生涯と、日本の女子教育に大きな貢献をされた、カナダのカトリック女子修道会の活動を紹介。その具体的な実りとしての佐藤初女さんの「森のイスキア」活動を詳述。 キリスト教とも意識されないほどにフランス社会に溶け込み、一般市民や、ユダヤ教徒、イスラム教徒も参加している国際的扶助活動「エマウス」を想起し、日本でのキリスト教精神の具体化に非常に参考になると思ったからです。
イギリス研究を通して知った十九世紀イギリス女性の状況を、教育の観点から概観。女性解放思想の祖メアリ・ウルストンクラフトが、既に十八世紀に、男女不平等の思想を批判し、イギリス女性教育改革を強く提唱していたことを紹介、また若松賤子の、 日本女性として自覚的なキリスト教男女平等思想の受容を、英詩「花嫁のヴェール」を通して検証しました。
第二部は、聖書、シェイクスピア、ミルトン等の解読、文学や絵画のサロメ像の系譜に、多様な女性観が反映されているのを跡付けました。
欧米キリスト教社会での、生き方の規範を示す基礎文書である聖書(旧・新約全書)と、ミルトンの「失楽園」を精読しました。ウルストンクラフトも、 創世記と「失楽園」にみられる男女不平等思想を批判しています。私は、改めて、創世記の人間創造の記述を念入りに読み直して、聖書は、男女が本質的に平等であるとのメッセージを発していることを確認し、それが時代とともに変質していく過程も納得しました。男女平等思想に関心のあるかたに、是非「聖書と女性たち」を読んでいただき、感想や批評を聞かせていただきたいのです。男女平等に対するしっかりした思想的根拠を持ち、しかもそれに振り回されることなく、現実の社会をよく見て、根気強く、柔軟に、真の男女共生社会の実現を目指したいと強く思っています。(巻末の正誤表を 注意ぶかくご覧になって下さい)
【書誌データ】
書名 :聖書と女性たち
著者 :斉藤 恵子
頁数 :427頁
刊行日:2021/9/14
出版社:論創社
定価 :4,180円(税込)
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