WANの理事の退職記念論集が出た。
論集『ジェンダー研究と社会デザインの現在』は、2022年3月31日に立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科をご退職なされた萩原なつ子教授の監修のもと、教授から博士論文の指導を通じて薫陶を受けた11人が感謝の意を込めて作り上げた書籍である。
本書は2部構成で、萩原教授のご専門の二大領域である〈ジェンダー〉と〈社会デザイン〉を各部に割り当てた。WANのホームページの読者は〈ジェンダー〉にご関心がある方がほとんどと推察されるので、特に第1部「多様なジェンダー研究」をご参照されたい。第1部は「地方自治体」「医師」「環境」「3.11」「AI」と〈ジェンダー〉を交差させた5つの章から構成されている。また私事で恐縮だが、編者の森田は第3章「日本のエコフェミニズムの40年――第一波から第四波まで――」を担当し、その中でWANの上野千鶴子・理事長のお仕事にも少なからず言及させていただいた。
全体の目次は以下の通りである。
【はじめに】
「監修にあたって『ジェンダー研究と社会デザインの現在』」(萩原なつ子)
【第1部】多様なジェンダー研究
第1章:「地方自治体における女性の視点に基づく政策形成の持続可能性に関する考察 ~消滅可能性都市の指摘を契機に政策転換を行った豊島区の『その後』を事例として~」(相藤 巨)
第2章:「子育て女性医師のキャリア形成とジェンダー構造」(内藤眞弓)
第3章:「日本のエコフェミニズムの40年――第一波から第四波まで――」(森田系太郎)
第4章:「環境とジェンダー ~原発事故によって奪われた言葉、女性たちの抵抗~」(菊地 栄)
第5章:「ジェンダー平等なAI社会をデザインするには」(佐野敦子)
【第2部】社会デザイン研究の試み
第6章:「ベビーホテル問題とマス・メディア」(淺野麻由)
第7章:「在宅医療の場が問いかける医師の役割 ~『治せない』患者についての在宅医の語りからの考察~」(景山晶子)
第8章:「大学教育と社会デザイン」(安齋 徹)
第9章:「留学生の定住・定着と社会デザイン――“居場所感”のフレームワーク――」(原田麻里子)
第10章:「公益信託法の見直しに関する一考察 信託の法律効果について」(藤井純一)
「おわりに」(森田系太郎)
「萩原なつ子教授のご経歴」
「萩原なつ子教授の業績リスト」
コラム:「萩原なつ子先生との出会い、そしてジェンダー平等社会の実現へ!」(山口典子)
「執筆者紹介」
本記事をお読みの方の中には、〈社会デザイン〉とは何か、またそれは〈ジェンダー〉とどのような関係があるのか、疑問に思われた方もいるだろう。それに応答すべく、萩原教授による「はじめに」からの以下の引用をもってこの編者解題を締めたい。
ジェンダー平等社会の実現は不平等や不公正な社会を少しでも良い方向に変えようとすることと等しく、したがってこの社会に生きる人々の意識や行動が変わっていくことが求められる。そのために必要なのが〈社会デザイン〉という考え方である。
〈社会デザイン〉とは、「異なる価値観を持つ人々が共生していくための知恵や仕掛けや仕組みとしての社会と、そこでの人々の参加・参画の仕方を、これまでの常識にとらわれず、根底的という意味でラディカルに革新(イノベーション)していく思考と実践のありよう」(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科, n.d.)であり、キーワードは多様性と包摂である。〈社会デザイン〉は20世紀型社会のパラダイムの転換を迫る社会的公正を追求する実践の過程で生まれた概念であり、人権意識に裏付けられた共生社会を目指すものとしてジェンダー問題と切り離すことはできない。本書が『ジェンダー研究と社会デザインの現在』と題された意図はここにある。(p. 2)
本書をお手に取っていただければ幸いである。
なお萩原教授は、2022年4月1日付で国立女性教育会館(NWEC)の理事長に就任された。ジェンダー平等社会の実現に向けた益々のご活躍が期待されている。
◆書誌データ
書名 :『ジェンダー研究と社会デザインの現在』
著者 :萩原なつ子(監修)・萩原ゼミ博士の会(著)・森田系太郎(編)
頁数 : 272頁
刊行日:2022/3/19
出版社:三恵社
定価 :2750円(税込)
2022.04.03 Sun
カテゴリー:著者・編集者からの紹介
タグ:本