2022年5月、2024年のNHK大河ドラマの主人公が紫式部だと発表され、にわかに平安時代への注目度が高まりました。 5月末刊行の本書『平安貴族サバイバル』はそのような良いタイミングで世に出たことになりますが、もちろん予測したことではなく、企画自体は素朴な疑問をきっかけに始まったものでした。

『源氏物語』や『枕草子』をはじめとした古典文学の名作を通して、風流や恋愛を楽しむ優雅なイメージが強い平安貴族。
現代人からすると、その文化のすばらしさを認めながらも、どこか「季節の風物を愛でたり、和歌を詠んだり、恋愛に一喜一憂するだけで毎日過ごせるなんて良いご身分だな」という気持ちも湧くかもしれません。

しかし、そのイメージはどの程度正しいものなのでしょうか。
専門知識のない私からのそうした疑問に対し、木村朗子先生が具体的な事例を挙げながらわかりやすく解説してくださったのが本書になります。

木村先生の解説を読むと、けっして彼/彼女らが苦労知らずだったわけではないことがわかります。
裕福な男性の庇護を受けなければ生活もままならなかった女性たちからすれば相手をつなぎとめることは死活問題であり、また男性にとっても容姿やセンスを含め厳しく評価される宮廷社会は生き残るのが大変な場所でした。
摂関政治における頂点ともいえる天皇の后やその外戚にしても、跡継ぎを産むまでやその後の政権争いなど、気の休まらない日々が続きます。

そのような環境で生きる貴族たちにとって、和歌や漢詩、音楽といった文化的教養や恋愛を含む人間関係は、サバイバルのための武器であったのかもしれません。
木村先生も指摘されているように、そうした営みを知ることで「平安貴族」の従来のイメージを更新し、現代で生きる我々にも共通する心理を感じ取っていただければ幸いです。

◆書誌データ
書名 :平安貴族サバイバル
著者 :木村朗子
頁数 :196頁
刊行日:2022/5/26
出版社:笠間書院
定価 :1650円(税込)

平安貴族サバイバル

著者:木村 朗子

笠間書院( 2022/05/26 )