内田舞 プロフィール
小児精神科医、ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、三男を妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信している。 記事「コロナワクチンの情報発信で気づく日本の女性の生きづらさ」が注目された。
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未だにアメリカの半分の地区で中絶が禁止される最高裁決定があったことに怒りと抑うつを感じています。どうしてこのような決定がなされたのか、人数としては国内のマイノリティであるキリスト教原理主義保守層の政治力、そして中絶が違法になった州では実際何が起きているのか、残酷な現状についてお伝えする記事を書きました。
▼内田舞 FRaU【子宮外妊娠でも中絶は殺人?医師が語る米国「中絶禁止法」一部可決の危険な背景 日本も他人事じゃない】
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97320
この中で、是非伝えたいと思うのは、中絶権が守られることが大前提ではありますが、日本は「中絶ができるから大丈夫」ではないということです。
日本はアメリカの半数の州と違って中絶の選択肢はあります。ですが、中絶にあたって配偶者の同意が必要です。さらに、日本では未だに、子宮口から金属の細長い器具を挿入して、掻き出す「掻爬法」が主流で、体に負担が少ない「真空吸引法」は他の先進国に比べて広がっていないという現状があります。さらに、2021年12月にやっと承認申請された「経口中絶薬」に関しても価格などの議論が続いています。「緊急避妊薬(アフターピル)」もやっと承認されましたが、未だに入手に手間や時間、価格が高いなどの問題があり、本当に必要な人に届かない、という問題が生まれています。
「経口避妊薬(ピル)」に関しても、承認には44年間もの時間がかかり、他の先進国に比べて今も普及率はなかなか上がらないという現状があります。例えば、アメリカの服用率は13.7%(アメリカも先進国の中では低い。それは反中絶派でも登場したキリスト教原理主義がピルなどの使用も禁止していることも影響している)、フランス33.1%に対して、日本は2.9%です。
ピルは避妊のためだけでなく、生理痛や生理前のうつ症状などを軽減するためにも使用されていますが、日本ではまだまだ「生理にまつわる」苦痛は耐えるしかないと言う印象が共有されていると感じます。悪阻や陣痛への介入が他の先進国に比べて圧倒的に低いことも同じ「耐えるしかない」或いは「耐えてこそ」という発想から来ているのかもしれません。
そして、日本では「性同意年齢が13歳」と極めて低いこと、同意教育自体が不足しており、痴漢などの性犯罪が頻繁に発生する現状を考えると、選択的な中絶以前のセーフセックスへの教育と政策が行き渡ることも重要です。
コロナ禍、日本では胎児遺棄のニュースが目立ちました。こういったニュースが出ると、遺棄した女性ばかりを責めますが、彼女たちに、緊急避妊薬や中絶のオプションがもっとアプローチしやすい世の中だったら、違った結果になったのでは、と思わずにはいられません。さらに、養子縁組制度や里親制度が、あるいは赤ちゃんポストの制度など、女性自身が選択肢と選択権がもっとある社会に、と思うのです。
子どもを持つことは当事者である女性自身や各カップルの個人的な判断であり、また様々な事情が関わることです。しかし、子どもを産まなければならないプレッシャー、産めない身体的なコンディションへの差別なども存在します。妊娠中や赤ちゃんにいざ問題があったときに母親に原因があったのではないかという目も絶えません。
中絶が合法であっても、それでよしとはならないでほしい。日本での女性の体の自己決定権とそのサポートという点で、日本もこれをきっかけに何が必要かと社会全体で考えていくことを辞めてはなりません。