
原題は『5月の8日間』。1945年5月1日から8日までの日々を、多くの人の証言に基づき、さまざまな角度から検証しつつ再構成する本である。
著者はリベラルな週刊新聞として知られる「ツァイト」で長いあいだ仕事をしてきたジャーナリストで、ヒトラーの伝記の著者としても知られるフォルカー・ウルリヒ。この本は一般の読者向けであり、予備知識がそれほどなくても理解できるように書かれている。
同じ1日の記述のなかにも政府高官や強制収容所囚人、一般市民や占領地域住民など、異なる立場の人々が登場し、無条件降伏へと向かうドイツが戦争末期にどのような騒乱と混乱に覆われていたか、つぶさに知ることができる。
ヒトラーは4月30日に自殺しており、後継指名された海軍大将デーニッツは降伏を少しでも先延ばしすることによって、ソ連軍が迫る東の地域にいる兵士や市民を1人でも多く、西側連合軍の支配地域に逃亡させようとしていた。
本書には連合軍との交渉のプロセスや、その後戦犯として裁かれることになる人々が当時どのように考えて行動していたかが示され、興味深い。
ただ本書の内容は、そのような大文字の歴史に限定されない。ここには女性の日記や証言も数多く引用されている。敗戦間際のベルリンでソ連兵に強姦された女性たちの告白。数百人規模で集団自殺が起こった村の記録。ハリウッドの有名俳優であったマレーネ・ディートリヒが、連合軍大尉として戦線に赴き、兵士を慰問しつつ、ドイツで敗戦を迎えた姉と母を探しあてる話。ヒトラーの山荘を取材するアメリカ人ジャーナリスト、リー・ミラー。尋問のためルクセンブルクに集められた戦犯容疑者たちと対面するエーリカ・マン(トーマス・マンの長女)。
冒頭では総統防空壕でのヒトラーとエファ・ブラウン、ゲッベルスとその妻マグダなど、自殺する最高責任者たちとその伴侶の姿も描かれる。一方、歴史に翻弄されつつも洞察を得、戦後世界で活躍していく若い女性たちも登場する。
今年の夏訪れたベルリン・ビエンナーレ国際芸術祭では、敗戦時のドイツにおける強姦の記録が作品として出展されていた。(https://12.berlinbiennale.de/artists/ariella-aisha-azoulay/)。
ウクライナでの戦争がまさに継続中だが、「戦争と女性」の関係について、まだ多くの考察が必要だろう。本書は今後の研究に対しても、重要なヒントを与えてくれるはずだ。
◆書誌データ
書名 :『ナチ・ドイツ最後の8日間 1945.5.1-1945.5.8』
著者 :フォルカー・ウルリヒ
訳者 :松永 美穂
頁数 : 512頁
刊行日:2022/7/19
出版社:すばる舎
定価 :4950円(税込)
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