
2019年東大卒業式での上野千鶴子さんの祝辞は、衝撃的だった。差別と弱者へのまなざし、それはフェミニズムとも通底をなし、大きな共感と感動をもたらした。それは、この著作の冒頭『彼女は頭が悪いから』とリンクする。
著者は元司書である。司書の一番の仕事は利用者と資料を結びつけること、そんな背景もあって、自分の心に残った本、そして映画を紹介するものをこれまで執筆してきた。今回のテーマは差別、自らの精神過程を追うような部分もある。
「我は穢多なり」。この衝撃的な言葉、著者にとっての不条理の原体験、中学の時読んだ島崎藤村の『破戒』の冒頭である。士農工商という身分制度は江戸時代のものなのに、明治になっても存在し、ましてや更に下の身分がある、その上、穢れたとはなんということか。当時建前と現実の違いさえ分からず、ただこの言葉の恐ろしさは、ずっと頭の中でとぐろを巻いていた。
他に取り上げたのは『無知の涙』、貧困が起因となった無差別連続殺人事件を起こした永山則夫の著、また旅で感じた違和感を引きづってたどり着いた『大地よ!アイヌの母神、宇梶静江自伝』など。
『石垣りん詩集』、一行で戦争の悲劇を、恐ろしいほどリアルに示す。若き日、雷にうたれたように言葉の衝撃を感じた詩である。同様、静謐であるがゆえに美しい魂をみる『空と風と星と詩:尹東柱全詩集』、そこから朝鮮への民族差別の本へと連なり数点紹介した。
そして差別が凝縮したものがフェミニズム、最近女性が自立するための最低条件として注目された『私ひとりの部屋』(ヴァージニア・ウルフ著)がある。奇しくも著者の大学の卒論はヴァージニア・ウルフ、当時ウーマン・リブという言葉さえない時代、その萌芽をどこかに見つけていたのだろうか。今回取り上げる本を読んでいるうちに、なぜかウルフに収斂していく不思議もあった。
差別が蔓延する格差社会、滅びる未来しか描けない時代に希望となる本はあるのか、そんな手探りの中、何かを見出してほしいと願いつつ紹介する元司書の蔵書票です。
◆書誌データ
書名 :図書館魔女の蔵書票(エクス・リブリス)
編著者:大島真理
頁数 :2192頁
刊行日: 2022/7/29
出版社: 郵研社
定価 :1650円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
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