
変革に挑んだ女性の足跡
本書は、日本の女子教育のパイオニアであり、女性の地位向上に生涯を捧げた津田梅子の足跡を、青春時代から働き盛りの40代までに重きを置いて追ったものです。最新の研究成果・豊富な資料をもとに、彼女の内面や思索にも迫ってみました。ジュニア新書ですから、若い読者を念頭に書きましたが、困難な時代や状況のなかで粘り強く「変革」に挑んだ女性の物語として、幅広い層の読者に読んでいただけたら幸いです。
1871年、女子留学生としてわずか6歳でアメリカ合衆国へ派遣された津田梅子は、彼の地で11年間、教育を受け、その成果を日本の女性に役立てようと帰国します。しかし、当時の日本社会では女性の地位は著しく低く、高度な学問も女性には必要がない、とされていました。梅子は数々の困難や挫折を経験するのです。
固く閉じた数々の扉を、いかに開いていったか。梅子は国内だけでなく、海外の協力者たちともネットワークを築き、人を束ねて資金を集め、ついに1900年、女子英学塾(現・津田塾大学)を開校します。本書では、こうした「プロジェクト・リーダー」としての梅子に着目しました。人々を牽引できたのは、梅子が国境、宗教や文化、そしてジェンダーの規範を、越えていくことができたからでした。また、「多くの特別な機会を得てきたのだから。得たものを他の人たちに渡していかなければならない」という強い責任感や利他の精神も、大きな原動力になりました。
梅子の背中を押したロールモデルたちの存在にも触れました。女子英学塾を創設する2年前に、3度目の海外研修の機会を得た梅子は、イギリスでナイチンゲールと面会することができ、もらった花束を押し花にして大切に保管します。それは、ナイチンゲールから受け取った「バトン」のような意味を持っていたのでしょう。本書の帯にも「梅子からのバトン、つなげ未来へ!」と記しました。若い世代の人たちが、梅子の物語から少しでも力を得て、それが社会を変えていく推進力になれば、と願っています。
筆者自身も、「不思議な縁」から津田梅子研究がライフワークとなり、研究活動を通して勇気や力をたくさん得てきました。アメリカの大学院に留学していた1980年代の半ば、20代の頃から研究を始め、2016年度からは津田塾大学の11代目の学長を務めています。2024年に発行される新5千円札には津田梅子の肖像が登場します。このタイミングで本書を刊行できたことを、うれしく思っています。 (津田塾大学学長)
◆書誌データ
書名:津田梅子―女子教育を拓く(岩波ジュニア新書)
著者:髙橋裕子
頁数:222頁
刊行日:2022/9/21
出版社:岩波書店
定価:880円+税
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