東京工業大―東工大―が、「より多くの女性科学者・技術者を社会のさまざまな分野に輩出するため」、また、現在の女子学生比率13%を20%nにあげることを目的として、2024年の入試から「女子枠」を設けると発表しました。24年度から、一般選抜を852人、総合型・学校推薦型を118人、新たに女子枠として58人分を募集。25年度からは一般選抜枠で801人、総合型・学校推薦型で84人、女子枠で143人、計1028人を募集するということです。

 これらの告知を見たTwitterユーザーからは、「女性の方が受験に有利になるのではないか」や「公平性が保たれない」「女性の社会進出とは違う話では」など、疑問を呈する声が上がってもいるようです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/17/news147.htm

 また、東工大は、8部局でそれぞれ1名の教授または准教授のポストを増設し、女性限定の教員公募を行うといっています。これは「男女雇用機会均等法第8条に基づくポジティブアクションとして、女性教員の割合が低い本学の現状を積極的に改善するための措置となります」と伝えています。東京工業大学HP東工大ニュース

 女性の大学教員を増やすことについては、東大も女性の教授・准教授を2027年度までに約50%ほど増やして約400人にすると発表しました。東大の22年5月時点の教授・准教授は計2322人、そのうち、女性は274人で16%しかいないのを、27年度までに女性の教授141人、准教授165人を新規採用して、女性教員の比率を25%にするというものです。(毎日新聞11月19日)

 これだけの手段を尽くしてもやっと女性比率が東工大で20%、東大で25%になるのかと、本当に女性の教授や准教授の少なさにがっかりしますが、でも、ポジティブアクションを実行しているだけでもいいと言わなければならないのかもしれません。

 念のため、全国の国立大学教員の女性比率を高い方から5位までの大学を見てみました。

1位 お茶の水女子大学 47.1%
2位 東京外国語大学 41.2%
3位 奈良女子大学 40.3%
4位 一橋大学 29.0%
4位 東京芸術大学 29.0%
https://portal.niad.ac.jp/ptrt/table.html

と、旧帝大と言われる総合大学はひとつも上位に入っていません。1位と3位が女子大というのは、当然と言えば当然ですが、それでも50%に満たないというのでは十分と言えません。仮に当大学の卒業生を登用して教授・準教授にすれば100%になるはずですから、それが半分にも満たないというのは、まだ女性比率が低いということでしょう。しかも40%以上というのがわずか3大学で、あとは29%以下なのです。こういう中だから東工大や東大のポジティブアクションが目立ってくるのです。

 たまたま、コロナで閉じ込められていたのがやっと外に出られたという、70代80代の女性たちがおしゃべりしている場に出くわしました。はじめは自分や家族の病気の話だったのが、いつのまにか大学や高校のクラス会のこと、昔のクラスメートのことなどに話が及んでいました。

A子:ああ、そういえば高2のときのクラスにとても優秀な友達がいて、東大を目指していたの。模擬試験などでもトップクラスで、東大合格間違いなしと言われていた。でも担任の先生が、女子が東大に行くと結婚できないよと言ってやめさせたの、本人もしぶしぶ納得して女子大に行ったの。
B子(元女子高教師):私のクラスにもそういう生徒いた。担任していたクラスにね、理系に行きたいという女子生徒がいたの。数学が好きでね。ところが3者面談の時に、その子の母親が理系だと結婚できなくなるから文系にしなさいと頑張るの。理科の先生も呼んできて、何とか母親を説得してもらったことがあった。その生徒、どっかの大学の先生になったと聞いてるけど。
C子:そうそう、私の高校のクラスメートで頭がいい子がいたの。4年制の大学に入りたいと言ってよく勉強していたけど、親に4大に行くと結婚できないからダメと言われて、泣く泣く短大に行ったわ。

 こういう話が次から次から出てきます。そうなんです。男性と同じ教育を受けられない女性が、つい最近までいました。いや現在も、女の子は高い教育を受けなくていい、それよりもいい相手をみつけていいお嫁さんになった方がいい、いいお母さんになった方がいいと考える親がいるし、理系の女子はリケジョとして特別扱いされ、理系を勧めない先生もいます。そういう社会だったのです。だから、女性はいろいろな面で差別を受けて来た。きちんとした教育を受けて、自分の人生を自分で選び取っていける自立心を養い、社会性を身につけながら指導的立場を得ていく、そういう機会を与えられなかった。そうした長年の差別があったから大学教員になることもできず、企業の経営者にも、役所の幹部にもなる機会が男に比べてうんと少なかった。

 女性たちは大きなハンデを背負ってきたのです。男性と対等に近づけるには、そのための、時によっては過激と思われるようなドラスティックなアクションが必要なのです。ある枠を設けて女性の量を確保することも必要です。東京の都立高校が長年女子の合格点を高くしてきた、そのこと考えれば、こうしたアクションが非難されるいわれはないのです。過激として非難されないように、徐々に徐々に左右を見ながらおそるおそる前に向かうのでは、いつまでたっても対等には近づきません。女性の中にも、特別に優遇されて――下駄を履かせてもらって――ポストを得たりするのを潔しとしない、自分たちの実力でポストを獲得していくべきだと考える人もいます。先のツイッターのように「不公平」だと言う人もいます。

 「女子枠」を公平でないと言う人、下駄をはかせるのは良くないと考える人には、言いたいです。これまで女性が被ってきた長い長い不公平な歴史を見てください、その不公平を少し公平に近づけるだけのことですよと。

 大学には、どんどん女子枠でも女性教員採用特別枠でも設けてほしいです。それをしなかったら、いつまでたっても日本のジェンダー指数116位は返上できませんから。