主に近・現代女性文学を研究する日本文学研究者たちが、フェミニズム批評の研究会を始めた当時について編集委員会が「はしがき」につぎのように記している。
「1991年3月、日本文学協会の一部会として発足した。同年3月、城西大学国際文化教育センター主催の「第二回環太平洋女性学会議」(国立女性教育会館)に参加した数名のメンバーが、〈環太平洋〉という文字通り国籍・人種・民族・宗教をこえた画期的な会議のその熱気が冷めやらぬなか、日本文学にもフェミニズム批評を導入したいという熱い思いを語り合ったことから始まったものである」。
この30年の間には、日本や世界の女性たちの状況も変化し、世界情勢にも様々のことがらがあった。それらを日本女性文学の作品を通して分析した。そしてこれまでの研究の成果として、「『樋口一葉を読みなおす』(1994)をはじめ、『『青鞘』を読む』(1998)、『明治女性文学論』(2007)、『大正女性文学論』(2010)と、男性中心の近代文学史や文学研究を問い直す論集を刊行してきた。 
 発足20周年の2011年には、『青鞘』創刊百年に当たることもあり、記念のシンポジウムを企画しようとしていた矢先、東日本大震災と原発事故に遭遇した。
 急遽、シンポジウムのテーマを「〈3・11フクシマ〉以後のフェミニズム」に切り替え、林京子氏を招いて講演会とシンポジウムを開催(同年12月10日、日本女子大学、脱原発を訴える「声明」を発表するとともに、その成果を『〈3.11フクシマ〉以後のフェミニズムー脱原発と新しい世界へ』(2012)として刊行した。その後『昭和前期女性文学論』(2016)、『昭和後期女性文学論』(2020)を刊行、現在、『現代女性文学論』の刊行を予定している。
 そして最後の「Ⅶ 高良留美子氏 追悼」については、以下のように記している「2021年12月12日に逝去された本会会員の高良氏を追悼する章とした。高良氏もこの論集に執筆を希望されていたが、原稿を頂くことは叶わなかった。高良氏は「第二回環太平洋女性学会議」に参加した一人で、常にシスターフッドの精神で会員に接し、会の精神的支柱ともいうべき人だった。ここでは、高良氏の詩四篇と、最後に活字化された論考を掲載し、歿後発見された未発表論文について紹介した」。

目次

Ⅰ〈パンデミック〉と女性/感染症と文学
 
コロナ禍と女性 松田秀子 著
 コロナ禍と日記 有元伸子 著
 パンデミックと文学 岩淵宏子 著
 貞明皇后の短歌が担った国家的役割 内野光子 著
 パンデミックには女性の政治的指導者の方が有能なのか 千種キムラ・スティーブン 著

Ⅱ〈交差性〉から探る新たな読み

 自由への希求 岩見照代 著
 入管の人権侵害問題 渡邊澄子 著
 松田青子『持続可能な魂の利用』論 上戸理恵 著
 戦争に抗う女性詩人からのメッセージ 羽矢みずき 著 
 ブラジルにおける女性文学の確立とグローバル化 江口佳子 著

Ⅲ 21世紀・ポストヒューマニズムの可能性

〈脱身体〉へ 与那覇恵子 著
「ポストヒューマニズム」文学としての日本・韓国の女性文学 小林富久子 著
 ゾンビ表象と原発 遠藤郁子 著
 木村紅美『あなたに安全な人』論 山田昭子 著

Ⅳ 循環する自然/いのち/セクシュアリティ
 
 いのちと希望の詩人・高良留美子 渡辺みえこ 著
 海猫沢めろん『キッズファイヤー・ドットコム』を読む 永井里佳 著
 鈴木悦にみる〈自然〉 橋本のぞみ 著
 川上未映子『春のこわいもの』覚書 矢澤美佐紀 著
 フェミニズムの視点から見る〈グレイヘア〉ブーム 近藤華子 著
「サルビア」の真っ赤な花の色 中島佐和子 著

Ⅴ 映像に見る〈パンデミック〉と現代
 
 新自由主義と〈格差・分断〉の拡大 岡野幸江 著
 映画「海辺の彼女たち」とリプロダクティブ・ジャスティス 藤木直実 著
〈恐怖〉映画「コンテイジョン」 渡邉千恵子 著
 アニメ「竜とそばかすの姫」 溝部優実子 著

Ⅵ フェミニズムの“力”

 私的〈平成〉回顧録 小林美恵子 著
 ハラスメントを乗り越えて 小林裕子 著
 富士見高原の三十年 吉川豊子 著
 フェミニズム文学批評との出会い 真野孝子 著
 女性学と私 羅麗傑 著
 渋谷「じょあん」 漆田(土井)和代 著

Ⅶ 高良留美子氏 追悼

 辞世の句 高良留美子氏略歴
 高良留美子詩選 高良留美子 著
 高群逸枝『母系制の研究』との出会いから縄文の母系制の本を書くまで 高良留美子 著
 ジェンダーの凋落 高良留美子 著

[資料]新・フェミニズム批評の会三〇年のあゆみ
 新・フェミニズム批評の会 刊行書籍総目次
「新・フェミニズム批評の会」 発足のお知らせと参加のよびかけ
 声明「脱原発」を訴える
 執筆者紹介

◆書誌データ
書名 :〈パンデミック〉とフェミニズム ――新・フェミニズム批評の会創立30周年記念論集
著者 : 新・フェミニズム批評の会
頁数 :352頁
刊行日:2022/10/28
出版社:翰林書房
定価 :3300円(税込)

〈パンデミック〉とフェミニズム

著者:新・フェミニズム批評の会

翰林書房( 2022/10/28 )