まず、はじめに
※解離性同一性障害:DIDの症状があるため「私」ではなく「私たち」という表現を使うことがあります。
※性虐待・性暴力の影響について触れているエッセイです。
※全てのDIDの方がこうであるということではありません。
2月になる。
1月、今月も生きた。
月末が来ると今月も生き延びることが出来たのだと、ため息のような不安も入り交ざった言葉にできない呼吸をしてしまいます。
これまで、様々な性虐待や性暴力を受けてきた私たち。
安心な居場所を守りながら生活をしていくこと。
トラウマの反応が大きく出る時は、外出することはできません。某アパレル店のジャケットを着ている異性を見るだけで「あ、無理だ」と、今日食べる物がなくても踵を返してしまいます。
「あ、無理だ」とその時に反応が出ることもあれば、私たちは数時間後にジワジワとトラウマという化け物に命を遮断されてしまうこともあります。
そうなると「生きるか死ぬか」
これを読者のあなたは、黒白思考と捉えるか、「たしかに」「そうなのか」と思うか。「わかる」と共感になるのか。
トラウマというのは私たちにとって黒白思考ではありません。
人生には様々な道があったり、壁があったり、下り坂があったりすると思います。誰もが「この道は安全だ。誰一人として危険な目に遭った人はいない」と人々が断言したとしても、私たちにとっては「目の前は崖じゃないか…」。しかし、周囲の人は「いいえ、崖などない」と言う。
記憶としてトラウマとなる出来事を思い出す時と、ふいに想起されるのでは全く異なると私たちは感じています。その人その人のトラウマ反応はあると思います。
険しい山登りをしていて、人によっては「命綱」となる綱であっても、希死念慮が強くなると私たちにとっては命綱ではなく「後押し」になってしまいます。
トラウマと希死念慮。この2つの歯車がうまく嚙み合ってしまった時、予想もできないくらいの様々な反応が出ます。その反応が毎回同じかと言われれば、私たちは「いいえ」と答えます。
「地獄めぐりをしているね」と8才が言った
18歳の頃も行政や警察官からの二次加害を受けてしまったり、今現在でも二次加害に遭ってしまう。
余程、後味の悪い小説でない限りハッピーエンドを迎えると思うのですが、ある日、8才のアイデンティティの口から出た言葉は「私たち、ずっと地獄めぐりをしているね」と。
大分県、別府市には地獄めぐりが出来るコースがあり、様々な地獄があります。
「ずっと坊主地獄にいて、救出されてもまた違う地獄が待っていた。海のように広くて果てしなく続く海地獄かと思ったら、今度は血の池地獄だね」と。
血の池地獄と例えたのは、フラッシュバックが起きた時に体に力が入ってしまうこともあり唇を強く無意識的に噛んでしまうこと。そして、二次加害を受けた時のことが想起され、苦しくて悔しくて唇を噛んでしまう。脳の中から恐ろしいことを追い出したくて搔きむしるアイデンティティもいたりすると口からだけではなく、掻きむしった所からも血が出てきます。
こういった症状を口に吐き出していくことが出来たらいいのですが、様々な虐待によって「我慢」を覚えてきた私たちの神経は、人に相談する力が欠けています。自覚はしています。しかし、虐待だけで「我慢」を覚えたわけではなく、大きな原因は「二次加害」。この影響は、私たちにとってはとても大きなものだと思っています。「相談したから、そうなってしまったのだ。だったら、相談しなければよかったではないか」と。
虐待を受けて育った私たちは常に自動的にアンテナが働いており、人の顔色・声色・仕草…そしてたくさんの人数でこの体をシェアしているので、いくつもの視点からそれらを見ることができます。(HSPに近いけれども、また違うもののように感じています)
そして脳内で会議を開き、どう思うか、どうすればよいのか等を話し合うことがあるのですが、10才未満の子どものアイデンティティの意見を尊重することを特に大切にしています。これまでもたくさん傷ついてきた真野あやみの中にいる子どもたち。傷ついても傷ついても大人を信じようとします。アタッチメントの課題が多いにあると思います。子どもにとって大人は生きる為に必要な存在です。内部ではなく外部に求めてしまうことがあります。
14、5才のアイデンティになると「裏切った大人は信用しない」そういう風に自分を守るためにも、これから先、出会う大人に対しても信用したくないと思って殻に閉じこもってしまう。
大人のアイデンティティになると感情はあるが客観的にも論理的にも考えてしまう。子どもたちの方が感情を持ちやすいシステムなのか、大人たちのアイデンティティは「我慢」という端子が埋め込まれてしまっている状態です。子どもの中にも感情を持たない子もいます。しかし、その子がとあるワークを自分でし始めた時、その子が描いた絵はとても怖い表情をした顔でした。感情がないのではなく、感情の出し方が分からない。封じ込められた感情。凍てついてしまったグリーフには、ゆっくりと時間をかけながら温めていく。
生涯かけてこの作業をしていく覚悟。なかなか簡単に覚悟はできませんでした。一生、この苦しみと向き合っていかなくてはならないというつらさ、悲しさ。しかし、生きる為にはしていく方がいい。生きる為には生活をしていかなくてはならないからです。生きる為には人と出会う機会があるので、健全なケアをしていく必要はあります。
「かわいそうに…」
連続エッセイを書かせて頂くことになった時、「何人って書けばいいの?」と思ったアイデンティティがいました。それは、私たちの身近でDIDの症状を持つ方の中に100人を超えた方がおられなかったので、あまりにも多い人数を書くのを躊躇してしまいました。
私たちと同じようにDIDの症状を持っておられるオルガさんの中にも100人を超えるアイデンティが存在することは知っていました。しかし、「どう思われるだろうか…」と考えてしまったのです。そして、まだ私たちのシステムの中には灯りのついていない部屋があり、その中に居ることは分かっていても何人いるかまでは分かっていないということもあり、記憶の回収や情報を共有できるアイデンティティたちの話をまとめると500は超えている。
日本で「500」という数字を出すことを私たちは恐れてしまいました。手の付けようがないと思われても嫌だったからです。
「性虐待を4才の頃から受けられて解離性同一性障害DIDとなって生き延びてこられた真野あやみさんです」と紹介され「かわいそうに…」と言われ、はじめて「自分たちはかわいそうなの?」と知りました。それまで置かれた環境の中だったので、かわいそうだとかは思ったことが誰もありませんでした。
「かわいそうに…」と言われて、いい気は私たちの場合はしませんでした。
「幸せは化け物に変化する」
トラウマの影響。虐待や二次加害がもたらす影響。
暴力のない家から出て新しい暮らしを始めた時、部屋に入った瞬間に「ここは聖域だ」と脳内で叫ぶアイデンティティもいました。
「誰も入ってこない安心して眠ることができるベッドが幸せ」と泣いて喜ぶアイデンティティもいました。
しかし、時間が経つとそれらの幸せは悪夢へと代わり、化け物と出くわす日々へと変わるのです。
精神科に通院し眠剤も頂いています。睡眠のメカニズムを知ると圧倒的にレム睡眠の時間の方が長く、例えば5時間寝たとしても4時間レム睡眠だということは当たり前のように私たちにはあります。8時間眠れた時も5時間半がレム睡眠でした。
昔から夢を見ることが多くて、それも記憶しており、夢を口に出して言うことがあり「どうしてそんなに長いの?」と言われことがありました。
夢も幸せな夢を見てみたい。「どんな夢みたの?」と聞かれ「何度も何度も犯される夢」と答えない日が来ることを今は信じてみたいです。
「24時間フルマラソン」
夢というもの、トラウマというもの、残酷な時間は寝ている時も続きます。多くの性暴力サバイバーの方もおっしゃりますが、夢の中で感覚が生々しく蘇ること。痛みも熱さも重みも全てリアルに感覚としてしっかり残ります。慌てて目を覚まして「これは夢だ。今起きていることではない」と理解して再び眠りにつくのですが、また同じ夢を繰り返し見るだけ。夢の中でも誰も助けにくることはなく、永遠に加害者に放置され都合の良い風に扱われる。
「やばい…今日、すごく疲れている…」朝の第一声です。心だけではなく、身体のエネルギーも使っています。レム睡眠なので体は休まっているはずなのに、悪夢を見るからか疲労が蓄積されてしまう。ウルトラディアンリズムも不安定だということも分かっています。
そして、トリガーとなるものが街には溢れている。何がトリガーとなるのか自分たちで記録し、それが今は安全であるという風に書き換える作業を数人のグループに分かれて作業をする。凍り付きの反応は勿論でます。
電気代もあがり、物価もあがり、何を節約しなくてはならないか。電気代の節約となってきています。部屋の温度は外と変わらず、逆に部屋の中の方が低かったりもします。3度となっても暖房をつけることができない。プラグから抜く。そのような寒い時にフリーズしてしまうと、身体の硬直をとくのにいつもの倍以上の時間がかかることが私たちのシステムにはあることが分かりました。
外出する時と同様な恰好で家の中を過ごす。エネルギーとなる食べ物を食べられる時に食べる。健康管理をする役目がおり、その中の1人がオリジナル(主人格)のあやみさん。フラッシュバックが起こりかけている最中でも、「今、食べないと解離するのが分かるから、他の子が食べないと体力がもたなくなる」と泣きながら食事をかけこむ。
成人男性が摂取するカロリーを取り続けても、体重は増えません。腸の消化の問題やエネルギーを使っている時間が長いのと大きな負荷がかかっていて、何よりもトラウマの影響の現れであると身体を通して感覚的にも分かります。
「私たちだけの化け物」
「たくさんの人数がいるから寂しくないでしょ」と言われることがあります。「孤独は孤独」です。孤独と絶望が嚙み合わさった時、強烈な希死念慮と戦うことになります。主治医から不安時用の頓服を頂いていますが、新しく生活をはじめた頃は飲まなくても生活することが出来ていたのに対し、今は頓服なしには生きることはできません。
暴力から生き延びた先に待っていたもの。
他の誰かの前に現れることのない、私たちだけに憑く恐ろしい化け物。
私たちは時間をかけ、温めていきながら。
化け物には凍てついてもらおう。
これが、今の私たちのサバイバルの仕方です。
※全てのDIDの症状を持っている方が全て同じ症状が出るということではありません。私たち「真野あやみ」のお話となります。
世の中、支援者の中にはDIDについて偏見を抱いていたり、腫れ物扱いをしたり、困難なケースだからと言い訳を使って支援を勝手に切りとんでもない性暴力に遭ってしまうということがあります。
少しでも、寄り添って頂き、DIDへの偏見がなくなることを願っています。
私たちもできる限り、支援者の方がどのような研修を受けておられるのかを知り、学ばせて頂きたいと思っております。
性暴力の話は読むだけでも心がざわついたりすることもあると思います。読んでくださった後は必ずリラックスできることを、ひとつでもいいのでセルフケアをして頂けたらと思います。よろしくお願い致します。
「私たちはどうして、歩みを止めないのだろう…
あの時、とある記者さんと約束したことがあるから」
☆画像は幼い子が好きなぬいぐるみたち。遊んで写真を撮ったりしています。
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