
いまよみがえる〈新しい女〉の文学世界
岡田美知代/永代美知代(1885-1968)は、広島県府中市上下町出身の女性作家です。
明治末から大正期にかけて、自然主義の小説家として評価されるとともに、数多くの少女小説を発表しました。ストウ夫人「アンクル・トムス・ケビン」の日本における完訳本に近いほぼ初の完訳『奴隷トム』など、複数の翻訳書も手がけています。
しかしながら、美知代の名は当初から師である田山花袋に添えて知られてきました。日本近代文学史上で画期となった田山花袋の小説『蒲団』(1907=明治40年)の女弟子のモデルとしてスキャンダルに巻き込まれ、美知代自身の業績にはなかなか陽光が当たってこなかったのです。
本書は、その岡田美知代/永代美知代の著作集です。美知代の生家を改築して開館し、美知代文学の研究や普及に努めている府中市上下歴史文化資料館と共編で刊行しました。従来から知られていた美知代の代表的な小説に加えて、習作や評論、少女小説、生前未発表の晩年の原稿、新発掘の新聞連載小説などを収録しました。
美知代が生きたのは、いわゆる「第一波フェミニズム」の時代です。美知代は晩年にいたっても、師の花袋について「恩は恩、怨みは怨み」と書き残します。小説では、高学歴の女性が直面した家事労働への戸惑いがコミカルに描かれ、実家の反対をおしきって恋愛結婚した夫の家父長的な態度や買春にストレートに怒りが表明されます。また、少女小説では女性たちのシスターフッドな関係が描かれて、女性であっても条件さえ整えば自身の力を伸ばすことができるという若い世代へのエールに満ちています。
本著作集は、同時代の女性作家や花袋に関する実証的研究のための一次資料であるとともに、MeToo運動が起きている現代だからこそ読み直し再評価が待たれる作品群でもあります。カバーデザインは、美知代作品を授業で読み解いた大学院生の矢吹文乃さんが手がけて、〈新しい女〉としての美知代と作品のイメージを表現してくれました。
なお、「広島の女性作家 岡田(永代)美知代」(https://okadamichiyo.hiroshima-u.ac.jp/)では、詳細な年譜、著作リスト、参考文献等を公開しています。本書を補完するガイドとしてご高覧いただければ幸いです。
◆書誌データ
書名 :岡田(永代)美知代著作集
著者 :有元伸子・府中市上下歴史文化資料館共編
頁数 :260頁
刊行日: 2023/1/25
出版社: 溪水社
定価 :2,200円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
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