新型コロナ禍やウクライナ戦争、円安等による食料価格の高騰に直面して、食料供給や農業の将来に不安を感じる人が増えている。しかし、これらの危機が表面化する以前から、貧困や飢餓、気候変動、生物多様性の喪失等が地球規模の課題となっていた。日本では、農村の過疎化や農家の減少と高齢化が深刻である。「自動車を輸出して食料を輸入する」という価値観は大きな転換を迫られている。
本書は、中高生の探究学習に役立てられるように編まれた3巻シリーズ「テーマで探究 世界の食・農林漁業・環境」の第2巻である。7つのパート「SDGs」「家族農業」「日本の食卓から」「貿易と流通」「土地と労働」「テクノロジー」「社会と政策」で構成され、クリティカル・シンキング(論理的思考)を培う問いかけと通説を覆す情報が多数盛り込まれている。
「耕さない農業が広がっている」「家族農業が世界を養っている」「大きな酪農より小さな酪農が効率的」「有機食材を導入しても給食の食材費は上がらない」など、これまでの学校教育では教えられていなかった最新情報を第一線の研究者や実践者が丁寧に解説する。
ジェンダーについては、「農家にお嫁さんが来ないってホント?」との問いかけに、上野千鶴子先生が背景にある農家女性の地位の低さや「輸入花嫁」の歴史を紹介している。「女性が(…)子どもを産み育てることに希望が持てるような農業の再生が必要」との指摘は、日本農業が抱える課題を解決するための道標である。
サステナビリティ(持続可能性)という言葉が氾濫する現在、あらためて「これってほんとうにサステナブルなの?」と問い直し、探究するきっかけに本書がなればと願う。
◆書誌データ
書名 :ほんとうのサステナビリティってなに?—食と農のSDGs
編著 :関根佳恵
頁数 :152頁
刊行日: 2023/3/1
出版社: 農山漁村文化協会
定価 :2,860円(税込)
2023.02.26 Sun
カテゴリー:著者・編集者からの紹介