スラヴェンカ・ドラクリッチは、旧ユーゴスラヴィア出身のフェミニスト、作家です。東欧のボーヴォワールともいわれ、家父長制が色濃く残る社会において女性の地位向上、ジェンダー不平等の問題などに取り組み、国内初のフェミニスト団体「女性と社会」を創設、続いて『フェミニズムの大罪』(一九八四年)を発表しています。激しい内戦が勃発した九〇年代、民族主義が台頭したクロアチアで「魔女」と糾弾を受けながらスウェーデンへ移住。英語で発表した文学的ルポタージュ『バルカン・エクスプレス』(一九九三年)や『カフェ・ヨーロッパ』(一九九六年)は欧米で大評判となりました。ボスニア戦争時の集団レイプを題材とした小説『エス:バルカン半島をめぐる小説』(一九九九年)は映画化もされ、高く評価されています。
ドラクリッチの新刊『ポスト・ヨーロッパ:共産主義後をどう生き抜くか』は、再び迎えた激動のヨーロッパに噴出する諸問題を予見する、至極のエッセイ集です。東西ヨーロッパの分断、ウクライナ問題、ブレグジット、#MeToo運動、移民問題、ポピュリズムの台頭など新たに生まれた政治、経済、文化の問題をテーマに、ソ連崩壊後から三〇年後の東欧世界が描き出されています。ヨーロッパへの幻想がいかに変化したのか、東側の人々を失望させたものは何であったのか、なぜオルバーン首相に支持が集まるのか、民主主義への不信はどこへ向かうのか、東欧で#MeToo運動が失速した理由など、「ポスト共産主義」の虚構と現実を理解する一冊です。周縁から見た最新のヨーロッパ論となっております。どうぞご高覧いただければ幸いです。
◆書誌データ
書名 :ポスト・ヨーロッパ:共産主義後をどう生き抜くか
著者 :スラヴェンカ・ドラクリッチ著 栃井裕美訳
訳者 :栃井裕美
頁数 :282頁
刊行日:2023/2/20
出版社:人文書院
定価 :3300円(税込)