「ノーを言う」「自己主張をする」女性たちが声をあげ、語るために必要だった歴史
女性が「自分」を語るなど当たり前だと思われるでしょうか? だとしたら、それは語ってもいい土壌を作ってきた方たちの尽力があったから――。
3月8日に発売された河野貴代美さんによる『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた~フェミニストカウンセリングが拓いた道』の原稿を読みながら、そのことを痛感いたしました。本書は、日本で初めて「女性解放」の視点でのカウンセリングを実践した創設者である河野さんがその歴史の秘密を明かす書です。
1939年生まれの河野さんがアメリカに渡ったのは1968年。アメリカでソーシャルワークを学びながら、フェミニズムに出会い、フェミニストセラピィの存在を知ります。その実践を日本でもやりたいと、日本でフェミニズムの考えに基づいたカウンセリングルームを開いたのは、タイトルにもある1980年のこと。
母、妻としての役割しか求められない女性たちの心理的虚しさは、贅沢な悩みとして取りあってもらえず、夫からの暴力は夫婦間の問題として軽く扱われる。セクハラという言葉はなく、痴漢は女性に隙があったと責任を転嫁される。1980年とはそんな時代です。
閑古鳥が鳴いたらどうしよう、という河野さんの心配をよそに、語り聞いてもらえる場は、日本の女性たちにも広く受け入れられることとなりました。それだけ自分の言葉で自分を語る機会に飢えていたのでしょう。
フェミニストカウンセリングが伝授する、「ノー」を言う、自己主張をする、「自分」を伝えるためにもがくことは、現在へとつながるエンパワーメントの土台でもあります。
帯には社会学者の上野千鶴子さんからコメントをいただきました。
「このひとがいなかったら、日本にフェミニストカウンセリングはなかった。
最後の著書になるかもしれないと、明かされなかった秘密を今だから語り残す。」
――上野千鶴子(社会学者)
巻末には河野さんと上野さんによる対談を収録。フェミニストカウンセリングの功績と限界に上野さんが容赦なく切り込みます。
自分が今、当たり前だと思っていることにどれだけ歴史の積み重ねがあるか。でも実際のところ、女性たちは自分の人生を生き、語れるようになったのか。女性の生き方を「語り」を軸に考えさせられる一冊です。
本書の見本ができた翌日、河野さんはアメリカの学会へとご出発されました。「おわりに」ではご自分のことを「仲間には知られた蛮勇の人」と書かれています。エネルギッシュな蛮勇の河野さんとのお仕事は、生きていくことへの大きな勇気をもらう体験でもありました。そんな力もこの本には詰まっていると思いました。
◆以下から本書巻末の試し読みができます。
河野貴代美×上野千鶴子「フェミニストカウンセリングは何をしたか? 何をできなかったか?」
https://www.gentosha.jp/series/jibunwokatarihajimeta/
◆シンポジウム開催のお知らせ
テーマ:フェミニストカウンセリングと現代の(女性)精神医学との交差点―女性の心理的困窮はどのように扱われてきたか
司会 :河野 貴代美
出演者/発題:
⋄内田 舞:ワクチン啓発と日本の女性
⋄小山 敦子:心身症と女性
⋄早苗 麻子:女性のためのクリニックを開院して
⋄加藤 伊都子:日本におけるフェミニストカウンセリングの歴史と課題
開催日時:2023年4月1日(土)10時~12時(米国時間2023年3月31日(金)21時~23時)
場所:オンライン開催(Zoomウェビナー)
*内容の詳細、お申し込みは、こちらをご覧ください。
◆書誌データ
書名 :1980年、女たちは「自分」を語りはじめた~フェミニストカウンセリングが拓いた道
著者 :河野貴代美
頁数 :328頁
刊行日:2023/3/8
出版社:幻冬舎
定価 :2200円(税込)