
やっと単著を上梓できる日がやってきました。著者の石島亜由美です。2019年秋にWAN女性学ジャーナルに論文を投稿してから3年半。この間、生業にしようと決めた鍼灸師の資格を取り、その仕事を始める傍らで本書を書き上げました。
私は大学でフェミニズムと出会ってから女性学専攻の大学院に進学し、博士号を取得。そのまま念願だった女性学の仕事を大学で始めるも8年でその道を断念(この経緯については2019年のWAN女性学ジャーナル論文に書きました)。
経済的自立の糧を失った痛手は大きかったけれども、鍼灸師として将来の独立を決意して、資格を取るために専門学校に3年間通い、国家試験を受けて働き始めることになりました。一方で女性学を続けることは諦めず、12年前に博士論文で書いたテーマを深化させ書き上げたのが、今回の『妾と愛人のフェミニズム:近・現代の一夫一婦の裏面史』になります。
本書のタイトルを見て、妾?愛人?と思われた方は多いのではないでしょうか。妾や愛人という存在と女性の解放を唱えるフェミニズムの何がリンクするのだろうと…。妾・愛人って、夫が不倫する相手じゃないか…。「倫理に非ず」の存在じゃないかと…。そんな存在をフェミニズムが擁護するのか?と訝しむ方もいるかもしれません。
本書は、フェミニズムが得意としてきた「家父長制」という議論の大きな枠組みから一歩踏み込んで、近代日本に成立した「一夫一婦」のあり方を問題としています。
フェミニズムは、男性と女性の間に差別があること、その不平等性を問題にすることから始まった運動ですが、そのためにフェミニストたちは、「一夫一婦」を女性が男性と対等になりえる思想、根拠として称揚し、その関係の中での対等性を追求しようとしてきました。
しかしこの関係が主張されることによって出てくる不具合、問題というものを、「妾」と「愛人」というキーワードから議論する、というのが本書の特徴になります。なぜ「妾」と「愛人」に注目することになったのかは、本書の「はじめに」で細かく論じていますが、私が20年フェミニズムに関わってきた中で感じた「違和感」が本書執筆の動機です。
したがって、フェミニズムの内部から現在のフェミニズムに対して疑問を呈すという格好になっています。フェミニズムは「一人一派」と言われるように、存在するフェミニストの数だけそれぞれのあり方が構築される場だと思いますが、WANに集まってくる多くのフェミニストの皆さんに手に取っていただいて、私のフェミニズムを読んでいただければ嬉しいなと思います。
【目次】
はじめに
第1章 明治の妾―― 一夫一婦の裏面の妾という存在
1 法制度からみる妾の位置づけ
2 妾の近代文化
3 文学に描かれた妾
第2章 戦前の愛人――恋愛をする人
1 近代日本フェミニズムの出発点――恋愛/一夫一婦/妾の否定
2 愛人の登場―― 一九一〇年代まで
3 一九二〇年代の愛人像――文学作品・婦人雑誌・新聞から
第3章 一九三〇年代の妻と妾――妻の嫉妬と閉塞感
1 「嫉妬する妻」の構築
2 一九三〇年代の「妻」「妾」の身の上相談
第4章 戦後の愛人――働く女性、性的存在、不道徳な存在
1 戦後愛人の原型――一九四〇年代後半から五〇年代
2 週刊誌のなかの愛人
初出一覧
おわりに
◆書誌データ
書名 :妾と愛人のフェミニズム: 近・現代の一夫一婦の裏面史
著者 :石島 亜由美
頁数 : 280頁
刊行日:2023/3/27
出版社:青弓社
定価 :3,080円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
最終講義
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