
少女小説からのメッセージ
*ほぼ同時代に生きた3人の作家
多くの女性たちが青春時代に一度は夢中になって読んだ懐かしい名作、そして今なお読み継がれている不朽の少女小説、『若草物語』『秘密の花園』『赤毛のアン』などを今読み返してみると、その中に潜むジェンダーに気づかされる。これらの作品を作者はどんな思いで書いたのだろうか。
『若草物語』の作者ルイザ・メイ・オルコット、『秘密の花園』のフランシス・ホジソン・バーネット、『赤毛のアン』のルーシー・モード・モンゴメリ、これらの3人の作家たちは生きた時代が少しずつ異なるが、1800年代半ばから1900年代の激動の時代であった。オルコットは南北戦争、バーネットは母国英国で綿花飢饉を体験し、モンゴメリは第一次世界大戦に遭遇した。その戦争前後の色濃い男性優位の時代に、女性たちを支配したのは家父長制であり、根強いジェンダー規範であった。その中で彼女たちは、ジェンダーに抗い、新しい少女小説のヒロインを誕生させたのだ。
*作家とヒロイン、密かなる闘い
三人の作家たちに共通していることは、少女時代の豊かな空想力、書くことへの惜しみない努力、そして貧困であった。当時は経済活動も盛んとなり、印刷出版業も活発であったので、作家という職業も認められ始めていたから、彼女たちは原稿料を稼ぐことで貧困から抜けだそうとした。もちろん作家になることを夢見ながら。けれど、当時の女性作家の地位は低く、少女向けの少女小説を書く作家たちは貶められていた。それでも彼女たちは少女のための少女が読む「少女小説」を書き続けた。そして、当時のジェンダー規範からの解放をジョーやメアリーやアンに託したのだった。
三人の作家たちはそれぞれ膨大な日記や自叙伝、伝記、書簡集などを著しており、それらを丹念にひも解くと、彼女たちが作品に込めたメッセージ・・・、婦人参政権獲得、結婚への抵抗、主婦、妻に期待される役割への反発、などが浮かびあがってくる。彼女たちは時にはジェンダーを批判し、時には迎合するが、その迷いこそは今の私たちに投げかけられている課題といえるだろう。
◆書誌データ
書名 :少女小説をジェンダーから読み返す――『若草物語』『秘密の花園』『赤毛のアン』が伝えたかったこと
著者 :木村民子
頁数 :224頁
刊行日:2023/3/24
出版社:亜紀書房
定価 :1980円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
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