
ソーシャアルジャスティスを日本語にすれば、単純に「社会正義」です。この言葉は人口に膾炙されていて、ほぼだれでも意味は理解していると思われます。しかし具体的に何を指すと問われたら、私などすぐに浮かぶのは、間違った裁判が行われたり、周辺化されるとか差別される人達が放置されていることに対して持つ感情であると言うでしょう。つまり「社会正義が行われていない」と。「行われる/行われない」という動詞がこれでいいのかもよくわからないのですが。
この硬く日常的には頻繁に使われない日本語をあえてタイトルにした理由は書かれていないようですが、気持ちはよくわかります。著者の意図が十分に反映しているのは、最終章の10章、つまり男女差別反対の示唆であろうかと思われるからです。これは後ほどにして。
タイトルは硬いものの、物事を考える際の道筋や助言を含んだケースは沢山でてきます。著者は20代半ばで渡米し、小児精神科医の仕事も米国で得て、家族もお作りになった方ですから、具体的な事例が米国なのは仕方がありません。読んでいて正直、米国的だなあ、日本人に理解されるかのかしら、と思った助言もあれば、よくわかる、それそれ、と言うのもありました。この場合の例。医者であるのは、体力勝負だ、とする意見に、著者は「3児の母となった今私がこの同級生たち(体力の要る医師に女性は向かない)に言いたいことは、本当に『体力勝負』なのは、医師の仕事よりも家事・育児だということです」(p128)。その通り!あなた、気づいていらした?
前者の懸念には、日本人が「感情」「意思」「行為」を分節しない、というかしないで済んでいることに気づかないこと。例えば「感じる」と「考える」を分けません。カウンセリングの場面で、私はたびたび「どう感じますか?」と尋ねてきました。返ってくる反応は、ほぼ「こう考える」です。
先の例にコロナワクチン接種も上げましょう。筆者の科学的根拠が全く役に立たないと言いたいのではありません。言いたいのは接種「反対」も「賛成」もしっかりした自分の根拠理由になっていないということです。前者は米国のマスク反対のように「誰かに言われて従うつもりはない」ほど、はっきりしていず、接種反対として日本で私の知っている人たちが数人いました。徹底したエコロジー(東洋医学)派で、たとえばN・ジョコビッチのようなテニス選手。あんなものを自分の身体に入れるわけにはいかないと。すごい少数派。賛成派も自分が感染するのはもちろん困りますが、他者にうつすことを何よりも恐れます。私もそうでした。他者にうつしたとなれば、理屈では、パンデミックなのだから
仕方ないとわかっていますが、気持ちは、いたたまれないでしょう。どういう子どもに育てたいかの質問に「人に迷惑をかけないこと」が第一位の育児観の国ですし、「お上」、の言うことですから。政府が強制的に進めるし同調圧力は強い。もちろん「勝ち組」とかの中傷や非難はあまりにも無意味なので置きましょう。必ずしも悪い意味だけではありませんが、いささか乱暴に言えば、ぼんやり流されながら生きている。
著者の主張を私なりに要約すれば、人は関係性のなかで生きている、したがってそれぞれの関係を確かめながら、自分と他者の位置を動かしたり、長くしたり短くしつつ、意見をのべること。つまりは個のありかたを自分なりに掴むということ。関係性のこの背後から生み出される個人(individual)が立ち上がる、ということではないでしょうか。
もう一つは、先述の男女差別的な社会構造の意図です。なかなか我が社会は性差別がなくならないのです。国際的なジェンダー指標が何百国の下の方であるのは言うまでもないし、性暴力はなくならないのみならず、最近増えているのは、小・中・高校における教員のセクハラです。性暴力に反対するフラワーデモ等、デモをしている若い人たちは変わっているといわれますが、選挙権年齢が下がっても、彼らに現状を変える力を頼めるのでしょうか。これを書いているたった今、数県での国会議員補欠選挙と地方首長、議員選挙の
結果が出たが、相変わらず自民党勝利です。LGBTQ+理解推進法はなかなか出さないだろうし、夫婦別姓の選択すら通らない。選択肢の多さは豊かさの指標ではないでしょうか。
これがですねえ、舞さん(トカ言ってみたい)本当に変わらないのですよ。うんざりします。もちろん一度での変革を期待していないし、さまざまなところで、様々な取り組みが大小を問わず行われているのは承知しています。私が書評をかいているこのメディア、WANの努力もこの中に含まれています。
著者の職場のすばらしさは(p244~250)、単に垂涎の的、うらやましいだけで終わらず、何をどうするべきか考えるという宿題を残してくれましたね。いつか、あの時はありがとうございました、と言える日が来ることを切望して。
◆書誌データ
書名 :ソーシャルジャスティス :小児精神科医、社会を診る(文春新書)
著者 :内田舞
頁数 :288頁
刊行日:2023/4/20
出版社:文藝春秋
定価 :1122円(税込)
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