
知を力とし、現実を変えたい。
しかしながら、学問が未来を予測することはほとんどなく、それどころか学問は過去の知に依存しておりAIと同じで想定外の事態に対応できないと言う。なぜならそれは、現実の変化のほうが学問の変化以上にずっと早いから。
ではそもそも学問とは?その役割とは何なのか?研究者は一体何を研究しているのだろう。
「かけがえのない自分の経験を仲間と支え合い、他人に伝わる言葉で、きちんと根拠を示して論理性を与えて説得する。そして伝わる、伝える、知にしていく。そのようにして伝達可能な知の共有材を蓄積していくのが私たち研究者の役割です。ですから、学問はいつでも私から出発します」と上野さんは言う。
そして当事者研究では、問題を抱え、そこから逃れることのできない人々が自分自身の経験の中で専門家の専門性を上回る、あるいはそれと対等だという学知が決して生むことのできない経験知をもち「私が私の専門家」という標語が生まれた。
現状を変えたいと思えば現状を正確に知ることは必須となる。当事者の語りや証言によって見える化される現実は、当事者の知である。語られなかったもやもやが、言語化されることを通じて再定義される。「女性学が行ってきたことは女性の経験の言語化、理論化、すなわち経験の再定義です。過去にさかのぼって、もやもやしたあのときのあれは一体何だったのだろうか、あれはセクハラというものだったのだと過去の経験の再定義もできるようになりました」
現実を変えたい。ならば、知を力としよう。知性は優位となる。知は権力である。私のことは私が決める。私から出発する私語り。あなたを掴んで離さない問題があるなら、あなたが始めるチャンスをもつ。あなたの経験を通じて言語化された新しい概念が新しい現実を見える化する。
■ 堀 紀美子 ■
「Local knowledgeの生まれる場所~当事者研究がもたらしたもの~」
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