節約でもミニマルでもない人生100年時代をしなやかに生き抜く
できることなら老後は、お金の心配などしないで心穏やかに暮らしたい。となると、いったいいくら貯めておくべき? 多くの人にとって切実なはずの老後問題を軽やかに乗り越えてしまった人がいる。本書の著者、稲垣えみ子さんである。
都内の1Kで一人暮らしをする稲垣さんは、かつては「お金を神と信じて」いたという。
ところが今や、ピクリともお金に動かされることも、振り回されることもない。自律した自分主体の生き方を貫徹している。そもそものきっかけは、50歳で会社をやめて、こぢんまりとした部屋に移り住んだことにある。部屋に入りきらない膨大な量の服や食器、身の回りのあれこれを処分し、洗濯機も掃除機も炊飯器も持たない暮らしを始めた。洗濯物はタライでじゃぶじゃぶ手洗い、掃除は箒で掃いて水拭き、食事は鍋ひとつの一汁一菜。食卓も作業台もシンクも蛇口も同じ一枚のふきんでキュッキュッと拭きあげれば、あとはすすいで絞って干しておしまい。
そうやって「全てをやりきった」感がとてつもない満足をもたらすことを、稲垣さんは知ることになる。自分の面倒を自分でみることで得られる至福感。お金に頼らずとも、手ひとつで人間はこれほどに幸せな気持ちになれるのかと瞠目した瞬間だった。
節約もミニマルも目指していないのに、結果的にお金がかからず、シンプルですっきり、これまで味わったことのないほど気持ちのいい暮らしを稲垣さんは手にする。そして、この「便利に頼らない」暮らしこそが、老後の支えとなると稲垣さんは確信するのだ。体を動かし五感を働かせて自分の面倒を見ていれば、その暮らし自体が老後の生きる動機になるからだ。体が動かなくなったら、持ち物をさらに減らし、食事もさらに簡素にすればいい。家事ももっと楽になる。
稲垣さんがたどり着いた境地には、後に続く者たちへのヒントがたくさん潜んでいる。お金主体ではなく、自分主体で生きる。身ひとつしっかり抱き締めてやっていけばいい。デフレ・インフレ・不況災害もなんのその、人生100年時代の希望の書です。
◆書誌データ
書名 :家事か地獄か 最期まですっくと生き抜く唯一の選択
著者 :稲垣えみ子
頁数 :272頁
刊行日:2023/5/25
出版社:マガジンハウス
定価 :1650円(税込)