公務労働からみえる日本の問題
公務員の雇用環境はジェンダー中立的で、民間企業と比べ男女で処遇差が生じにくいという印象が一般にあるのではないでしょうか。女性にとって正規公務員の職を得ることは民間企業に勤めるより条件がよいことを、管理職比率や平均勤続年数などの数値は示しています。公務員は定年まで安定して働くことができ、比較的休みを取りやすく、「仕事と家庭を両立しやすい」職業のひとつです。「条件のよい」公務労働の世界で、どのように男女の処遇差が生じ、その処遇差がどのような影響を職員に及ぼしているのかを、先行研究や公表データを踏まえ、全国現役公務員のリアルな声とともに初めて言語化したのが本書です。
筆者は現在地方公務員として働きながら、大学院で公務労働を研究しています。勉強する中で、自治体組織というのは日本社会の縮図のような側面があると考えるようになりました。①正規職員が一つの組織に長期間雇用され、②労働市場の流動性は低く(職員の入れ替わりが少なく)、③正規職員と非正規職員の労働市場は分断されています(非正規職員が正規職員に移行するしくみが採用試験を受ける以外基本的にはない)。また、④性別によって割り振られる職務に違いがあり、⑤同質性の高い職員たちによって意思決定がなされています。こうした特徴を持つ組織で長期間にわたって雇用され続けることには、どのような働きづらさ、生きづらさがあるのでしょうか。そして、性別という基本的には変えられない属性による線引きがどのような形で潜んでいるのでしょうか。
本書では、女性正規公務員が働くうえで抱える困難さの背景や構造を明らかにしたのち、個人には具体的に今何ができるのかを示唆しています。主に地方公務員へ向けた書籍ではありますが、筆者の大元の意図としては、女性公務員の問題を通して、学術的な視点からわかりやすく日本社会の姿を描こうと試みています。また、公務員以外の多くの方にとっては、公務労働のリアルな姿を初めて目にする機会になるかと思います。
本書を通じ、日本が抱えている問題を解決するヒントが公務労働にもあると知っていただくきっかけになれば幸いです。
◆書誌データ
書名 :女性公務員のリアル なぜ彼女は「昇進」できないのか
著者 :佐藤直子
頁数 :192頁
刊行日:2023/3/3
出版社:学陽書房
定価 :2310円(税込)