
図書館の新刊書のコーナーでふと目に止まりました。『#発言する女性として生きるということ』(チョン・ソヨン 訳・李聖和 クオン 2023)。魅力的なタイトルです。どんな女性か知りたくなって早速借りてきました。裏表紙の著者紹介欄には、ソウル大学で社会福祉と哲学を専攻。在学中に、ストーリーを担当した漫画「宇宙流」で2005年の「科学技術創作文芸」で佳作を受賞し、作家として出発。小説執筆と翻訳の仕事をしながら延世大学法学専門大学院を卒業し、現在は弁護士兼SF作家として活躍していると書かれています。年齢は書かれていませんが、2005年在学中に受賞というところからすると、まだ30代後半でしょう。SF作家と弁護士とどちらか一方だけでも大変な仕事なのに、そのふたつをこなしているというすごいタレントの持ち主です。
このエッセイ集は、第1部「信念を軽んじる社会で」、第2部「発言する女性として生きるということ」、第3部「私たちが物語になるとき」の3部構成になっています。第1部は主に弁護士としての活動の中からの思いや気づきを語り、第2部はフェミニストとしての発言、そして3部は、小説家・翻訳家としての作品に即したエッセイです。第2部の「話を聞いてくれ」というタイトルのエッセイの「男女比合わせ」には痛く共感しました。その一部を書き抜いてみます。
数年前から一人でやっている運動がある。それらしき名前をつけるなら「男女比合わせ」とでもいおうか。[…]まずどんな場所であれ、男性がより多く発言する場合、私もそれと同じ分だけ発言し、男女が発する言葉の絶対量のジェンダーバランスを合わせるのだ。発言内容が良いに越したことはないが、この運動のポイントはずばり発言の絶対量の釣り合いなので、話のレベルまで保つのは難しい日もある。話が長くなると中身が薄くなるからだ。それでも、発言の質は二の次で、とにかく、男が話す分だけ女も話す、これが一つ目の運動だ。
次に、自分に決定権や推薦権が委ねられた場合、とにかくまずは女性を推薦する。弁護士という仕事柄もあってか、どんな諮問会議、実務者会議、シンポジウム、講演、懇談会に参加しても男性が多い。男女比が一対一になることも皆無に等しい。だから、誰か推薦してほしいという依頼を受けたときは、真っ先に性別を考える。候補者が優秀ならなお良いが、実のところこの点はさほど心配には及ばない。有能な女性は実に多いからだ。ささやかなところでは、講義のあと聴衆から質問を受けるときも、まずはなるべく女性を指名するようにしている。そうしなければ、男性陣しか質問や発言をしない場合もある。そういう状況をつくらないように心掛けている。
三つ目は、同じ会議などで女性が発言したら、できる限り支持し同意する。自分の意見と違う場合どうするか? 驚くことに、大部分の女性の考えや発言は筋が通っている。ほとんどの人の考えや発言がたいていは正しいように、女性の主張もたいがいの場合、反駁しなければならないほど支離滅裂なことはめったにない。ことに、男女比がアンバランスな場で女性の発言する内容は,充分に練り上げられていることが多いからかもしれない。やってみたら、これがいちばん簡単だった。(pp118-119)
「男女比合わせ」のネーミングが少しわかりにくいですが、会議などでの発言量も委員会などの人事の構成も男性と女性の比率を同じにする、つまり男女同じにするということです。現実があまりにもアンバランスだから、ジェンダーバランスを等しくするための著者チョンさんのたったひとりの運動なのです。
こういう運動いいですねー。見習いたいですねー。
3番目の、女性の発言を支持し同意する、これは著者も言っているように比較的簡単でしょうから、だれにでもすぐに真似ができます。1番目の会議での発言量を同等にするは、ちょっとすぐにはできないかもしれません。いつもいつも同じ量だけ発言するぞ、と肝に銘じておかなければいけないし、話し慣れた男性のように延々と話し続けるには相当の訓練が必要でしょう。2番目は、人事の推薦を依頼されたら当然女性を推薦すればいいのですが、その推薦権のあるポジションを得るまでに大きなハンデがあります。意思決定の場にいる女性は少ないからです。ですから、だれでもかれでもがチョンさんの真似ができるわけではありません。でも普通の市民にでもできる「ひとりでやる運動」はあります。
子どもの担任の先生が女性だったら、子どもと一緒にその先生を好きになりましょう。「男先生でなかったらはずれ」などとは絶対に言ってはいけません。
病気になってクリニックや病院へいって女性の医師が担当になったら、その医師を信用し何でも相談しましょう。女医では頼りないなんて決して思ってはいけません。
選挙の時は、支持政党の候補者の中に女性がいたら、まず女性に投票しましょう。権謀術数にたけて悪いことを考えるのは男性に多いです。
建築現場や車の運転、製造業などの場で働く女性を、「大変な仕事をしていて、かわいそう、きのどくに」などという目で見ないことです。こうした現場の女性たちは、ただ力だけで働いているのではないのです。しっかりとした技術を持って働いているのです。
長年の男性優位社会に浸りすぎて、つい自分たち自身でも、「女は弱い」「女は頼りにならない」「女は無力だ」「女はダメだ」と思い込んでいるところがあります。そういう意識がジェンダーギャップを温存しています。自分たちの根強い偏見との戦いも「ひとりでやれる運動」です。
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